某日。群馬県某町・ゼノク。本部・支部同様、ゼノクにも地階は存在するのだが、西澤は何か引っ掛かっていた。

ゼノク館内図には記載されていない隠された場所があるという、まことしやかに囁かれている噂がある。
これはゼノク職員が噂していたものらしい。それが広まり、ゼノク隊員にも伝わった。



鼎はゼノクにいる二階堂とたまに連絡している。二階堂もその噂を聞いていた。

「なんだその噂は?二階堂、不気味ではないか」
「そうですよねー…。館内図にはない場所があるという噂、確かめるのが怖いですよ。そんな勇者、いたらすごいですよ…」

「噂の場所はどこなんだ?」
「地下らしいです」
「地下?」

「ゼノク館内図、データ送っておいたので見といて下さい。地下の館内図、私達も初めて見ましたが複雑なんですよね。
本部や支部とは違う構造になってるようで、ますます怪しいんですよ」


「噂はそれだけではないんだろ?隠してないで話せ。聞くだけ聞くから」
二階堂はおずおずと話始めた。

「ゼノクに『ミイラ女』が夜中に出る噂があるんです。『包帯女』とも言いますか。見た目がかなり特徴的で、『顔から首』にかけて包帯に覆われているとかいないとか」
「学校の怪談みたいな噂だな…」


顔から首にかけて包帯に覆われている!?
…あれ…最近聞いたゼノク設立のきっかけになった御子柴と特徴が一致してないか?

だが御子柴は10年前に死んだはず…。


「西澤室長も最近になって、地下に何か隠された場所があるとか感じたみたいなんです。『包帯女』と関係あるかはわかりませんが…。調査しています」
「何かあったらすぐに教えてくれ」


ゼノクは謎が多い。ゼノク医療チームの拠点であり、蔦沼長官の管轄施設だ。

「ゼノクは長官の管轄施設…。ゼノク医療チームの拠点…」
鼎は呟いた。なんだろう、何かある気がしてならない…。



数日後。西澤は地下の調査をしていた。

「あの噂が本当なら、地下に何かしらあるはずだが…」
ゼノクは複合型施設ゆえに、本部・支部よりも館内が広い=地下も広い。西澤は館内図を見ながら進んでいく。
すると行き止まりに。壁が気になった。


壁…?にしてはやけに薄いように見える。気のせいか?


西澤は半信半疑でその壁を押してみた。いきなり壁が動いた。


隠し通路…!?どうなっているんだ!?


隠し通路の先は薄暗い。ぽつぽつと最低限の灯りがあるだけで。

「なんなんだこれは…!」
西澤は隠し通路の先が気になるも、意を決して進むことに。西澤は懐中電灯を点けた。それでも薄暗い。


景色がだんだん殺風景になっていく。まるでシェルターの中にいるような感覚。

西澤はいきなり強く肩を掴まれた。彼は恐怖に襲われた。叫びたくても声が出ない…!
西澤の肩を掴んだ人物はぼそっとあることを呟いた。


「この場所を口外したら…許さないから」


女の声だった。西澤は横目に見る。僅かにその声の主の姿が見えた。
隠し通路は薄暗いが…顔から首にかけて包帯に覆われている女性だとわかる。服装は私服じゃない。
ゼノク隊員のブルーグレーの制服でもない、ゼルフェノアの白い制服らしきものが見えた。上着の裾が長い。女性は上着を羽織っているようだった。



翌朝。西澤は1階で気絶しているところを隊員に保護される。


「西澤室長、大丈夫ですか?」
「あれ…?ここは1階か」
「ずっと気絶していたんですよ。何かあったんですか!?」

「……包帯女を見た。うろ覚えだが…。地下は危険だ…!」



「二階堂、どうしたんだ?」

「例の包帯女、西澤室長が見たって。鼎さんが聞いた『御子柴』さんと特徴も酷似していたそうです」

「模倣の可能性もあるな…」


「でも変すぎませんか?その人、ゼルフェノアの白い制服らしき上着を羽織っていたらしいんです。
見たことのない、裾が長いタイプだとか」
「死人が生き返るなんてあり得ないが…。いや、私のように死んだように見えて実は『生きてました』パターンもあり得る」

「西澤室長、あれからなぜか地下について話たがらないんですよ。絶対地下で何かされてる。じゃないと気絶なんてしませんよ」

「ゼノクの包帯女が御子柴なわけ…ないよな…」



ゼノク。蔦沼はひとり、ある場所へと向かう。それは地下の隠し通路。
隠し通路の先には部屋がいくつかある。長官はその部屋に用があった。

部屋をノックすると出てきたのはゼノク医療チームの姫島。


「姫島、彼女の様子はどうだい?」
「わりと落ち着いていますよ。…しかし私達があの時救って良かったんですか?私達がいたからなんとか救えましたが…顔と首の後遺症は未だに消えないでいる…。彼女はあの姿には慣れてますが、表には出られなくなってしまった…」
「ゼノクで噂になっている。なんとかしないと」


「長官、正直に話した方がいいのでは…?
『御子柴紗綾』は生きてますって。まぁ私達が闇医者時代に助けたんで…なんとも言えないですが…。
身元を明かすわけにも行きませんから、彼女は名前変えているのはご存知でしょう?泉憐鶴(いずみれんかく)と」



数日後、ゼノクに動きが。


蔦沼はあの噂の真相について告白。それはあまりにもショッキングだった。


10年前に死んだはずの「御子柴紗綾」は(闇医者時代の)ゼノク医療チームにより生存→身元を明かすわけにも行かないために「泉憐鶴」と名前を変えて生きていた。

見た目が目立ち、特徴的なことから地下でずっと暮らしていたという。夜中に目撃されていたのは周りの目がない時間帯が夜だったから。
現に憐鶴(御子柴)は夜になると、敷地内の庭園をたまに散歩したりしていたとか。


制服がなぜ白い制服なのかは、蔦沼は一切明かさなかった。この10年間に憐鶴はゼルフェノアに入っていたことになる。
おそらく蔦沼は憐鶴を組織に必要なポジションだと見たのだろう。憐鶴は地下でずっと淡々と任務をこなしていた。人前に出ずに済むような、限定的な任務は密かに憐鶴が遂行していたことになる。


地下にいた姫島は憐鶴の世話役になっていた。姫島は憐鶴の包帯を取り替えたりしている。
憐鶴は常に顔全体を包帯で覆っているため、食事も困難。必然的に世話役が必要になる。彼女は視界が極端に狭いため、ガイド役も必要だった。



これに最も驚いたのは西澤。

「ちょ…どういうことですか…?御子柴は死んだはずですよね…?
ちょっと頭が追いつかない…」
「加賀屋敷達に聞いてみな。ゼノク医療チーム発足前に、彼らは御子柴の手術している。顔と首の後遺症はまだ残っているからあの姿だよ」


「じゃああの『包帯女』は…」

「実在してたの。だからといって彼女を持て囃すなよ。表では死んだことになっているんだからね。
御子柴改め、憐鶴は人前に出ることを極度に嫌っている。いいか、職員と隊員にも伝えておくが…騒ぎ立てるな。一部の入居者は薄々感じていたみたいだけども、彼女も怪人由来の被害者なわけだし…入居者との交流は許可している」



ゼノクに夜中現れる包帯女の正体を聞いた鼎は信じられない様子。

「御子柴が生きてた…?いや今は憐鶴か。ゼノク医療チームが絡んでいるって…」


ますますわからなくなってきた…。ゼノク医療チームが…。
病院が見捨てた、怪人由来の後遺症が重度の余命半年の御子柴を治療したということか?

長官はゼノク医療チームについて「踏み入れてはいけない領域」と言った。
私も加賀屋敷の治療がなければ死んでいたという。一体何者?



――ゼノク。地下隠し通路奥にある部屋。
御子柴改め憐鶴は姫島と話をしていた。

「私のように加賀屋敷さん達に救われた隊員がいると聞きました…。
き…紀柳院鼎さんでしたっけ」
「憐鶴さん、まさか自分から会いたいとは言わないですよね?逆なら可能ですが…」

「…こんな見苦しい姿で人前には出られないですよ。私の場合はガイド役や世話役がいないとならないのに。
この包帯、いつになったら外れるんでしょうか…」


「ご、ごめん憐鶴さん。もう10年になるんですよね…。包帯は外せそうにない…。
ゼノクが出来たことで怪人由来の後遺症治療技術はかなり進歩したんですが、憐鶴さんのは滅多にない症例なんです…」
「じゃあやっぱり一生このままなんですか…?」

姫島は答えられなかった。



――約1週間後。鼎はゼノクから来て欲しいと要請される。
憐鶴が蔦沼経由で会いたいと言ってきたのだ。鼎はゼノク医療チームに迫れるかもしれないと思い、承諾した。


鼎1人だけでは心もとないからと、運転手に桐谷・連れに時任を連れていくことに。
時任はゼノクにいる兄に会いたいのもあり、立候補。


移動中の車内。


「きりゅさん、なんかよくわからないけど御子柴さん生きてたんすね…。あ、今は泉さんか」

「憐鶴は過去が過去だから、極度に人前には出られないというから私が会うことにするよ。加賀屋敷に治療を受けた私には興味があるらしい…。
私と違って憐鶴は顔から首まで包帯姿だから、かなり生活に支障が出ていると聞いたな…。基本的に明るい時間帯は地下にいるというし」

「そりゃ人前に出たくないっすよ…。後遺症を隠すとはいえ、出で立ちがミイラじゃな〜…」
「本人もそれが嫌でずっと地下に籠っていたそうだ。夜ならある程度は抵抗はなくなると。だから会うのは夜だ。
夜になれば彼女は地下から地上に出てくるはず。気分転換に館内や庭園も散歩しているとか」


「なんだか複雑っすよね〜」

「これでゼノク医療チームが噛んでることは確信したからな」


桐谷がマイペースに声を掛けてきた。

「そろそろゼノクへ着きますよ。まだ午後だからそれまでは自由ですね。
時任さんはお兄さんと会うんでしょう?」
「兄貴は楽しみにしているみたいだからね!」

「私も着いたらしばらくゆっくりするか…」





特別編 (5)へ続く。