午後14時過ぎ。鼎一行はゼノクへ到着。いちかは久々の兄との再会にテンションが上がってる。

「早く入りましょうよ〜。ねぇ〜」
「いちか、はしゃぐな。入ったらひとまず自由時間だが、今日は泊まりになるぞ」
「…へ?泊まり?」

いちかはポカーンとしてる。
「憐鶴(れんかく)と会う時間が21時だ。その時間帯なら本館は人がほとんどいなうから、あちらには都合がいいらしい…」


21時!?遅くない!?


「今回は憐鶴の都合に合わせているんだ。仕方ないだろう」
「そ、そうだよね…」


3人はゼノク館内へ。そこにはいちかの兄・眞(まこと)がいた。

「兄貴ーっ!」
いちかは思わずダッシュし、兄に抱きついた。
「いちかは相変わらずだなぁ。あ、皆さんお久しぶりです」

眞は軽く礼をした。しばらくの間は自由なのでいちかと眞は東館へ。残された鼎と桐谷は本館に留まることに。


「鼎さん、どうします?時間…有り余ってますよ?夕食までまだ3時間以上ありますよ?」
「二階堂達のところへ行こうか」


2人は時間潰しにゼノク隊員がいる場所へ。そこでゼノク隊員から様々な話を聞いた。

「二階堂達は加賀屋敷達について何も知らないのか?」
「ゼノク医療チームは私達は特に何も聞いてないですね。ゼノクを拠点にしていることしかわからないです」

情報が少なすぎる…。隊員ですらわからないとは…。



やがて約束の時間が来る。

待ち合わせ場所は本館・ラウンジ。ラウンジは時間帯が遅いせいか誰もいなかった。そこに姫島と共に憐鶴がゆっくりと合流。

鼎は憐鶴の姿をまじまじと見た。確かに顔から首まで包帯に覆われている。それはまるでミイラのよう。
完全に包帯で顔を覆われているため、わからない。


姫島は憐鶴を誘導しながら、鼎と対面になるように椅子に座らせた。
「姫島さん、終わったら呼びますね」
「では私は一旦退きます」

姫島はラウンジを出た。


鼎は姫島について聞いてみる。

「いきなりだが、あの姫島という女性は何者だ?」
「私の世話役です。見ての通り、私は極度に狭い視界でガイド役が必要でして…。こんな姿じゃ仕方ないですよね…」

憐鶴はかなり遠慮がちに話している。


「憐鶴…加賀屋敷の治療を受けたのか?それで私に会いたいと?」
「はい。蔦沼長官から聞きました。『紀柳院鼎も加賀屋敷の手術を受けた』と。そして彼女はゼルフェノアにいると」

「憐鶴、その包帯…外せないのか……」
「生還こそはしましたが、後遺症は残っていまして…常にこの姿ですから…。もしかしたら一生このまま…」


憐鶴はずっとうつむいている。鼎は自分に似ているな…と感じた。
憐鶴は顔を上げる。人前に出るのが億劫なのか、怯えているようにも見える。

憐鶴の顔は包帯で見えないため、仕草などで察するしかない。


「憐鶴は…怖いのか?人前に出るのが」
「怖い…です…」

消え入りそうなくらい、小さな声だった。
「憐鶴は加賀屋敷達について何かわからないか?調べているが長官でさえも教えてくれない。『踏み込んではいけない領域』だと言われたよ」
「私も詳しく教えて貰えませんでした」


空振りか…。


鼎は席を立つと憐鶴の側に来た。
「ずっと1人だったんだろ…?ゼノクの地下、案内してくれないか。憐鶴はどこに住んでいるんだ?」
「すいません。姫島さんを呼ばないと…」


憐鶴は器用に何か端末を操作。するとほどなくして姫島がやってきた。

「姫島さん、紀柳院さんを私の部屋に案内してもいいでしょうか。時間も時間ですし、空き部屋に泊めてもいいでしょうか…?」
「構いませんが…隠し通路のことを口外しないで下されば」


隠し通路?



ゼノク・地下。憐鶴・姫島・鼎の3人は隠し通路へ繋がる壁へ。


「ここから先は私の居場所となります。こんな時間に案内してしまい、すいません…」
「別に謝らなくても…」

憐鶴は壁を押すと壁がゆっくりと動いた。スライド式の隠し扉的なものだ。
隠し通路は薄暗い。


「この通路、薄暗いな…こんな感じなのか?」
「…はい」

殺風景な隠し通路。なぜか隠し通路はシェルターのように頑丈だと気づく。
ここが館内図にはない場所…。

しばらく進むと部屋にたどり着いた。姫島が扉を開ける。
「どうぞ中へお入り下さい。中は綺麗ですから」


憐鶴に通された部屋は意外と広かった。地下だとわからないくらいに快適な空間が出来ている。


彼女はある部屋を案内した。

「ここで私は人前に出なくてもいいような任務を遂行しています」

そこにはPCを始めとする機器が並んでいた。


「やっぱり隊員だったのか…!だがその制服、ゼノク隊員のものではないな。どういうことだ?」
「それは…私がゼルフェノア特殊請負人をしているからです。司令補佐と同等となっていますね。だから制服が白いのです。
私は表には出られないがゆえに、この位置に就きました。表に出られないのを逆手に取ったんです。…というか抜擢されました」


特殊請負人?聞いたことがない名称だ…。


「鼎さん、戸惑っていますよね。特殊請負人は顔を知られては出来ないんですよ。リスクが大きすぎますから」
「だからお前に白羽の矢が立ったのか。常に包帯姿ならまずわからない。
世話役の姫島くらいなのか?素顔を知っているのは……」
「まぁ、そうなりますね。姫島さんだけです。実質」


鼎はこの憐鶴の世話役・姫島がゼノク医療チームの1人であることを知らない。


鼎は時間を見た。22時半過ぎてるな…。

「時間も遅いですし、泊まってはどうでしょうか?
空き部屋には客用のベッドもありますし。私の寝室は離れていますから」
「憐鶴…食事、どうしてるんだ?その姿ではかなり不便だろうに」

「…あ、そこは大丈夫です。人前では食事出来ませんけどね…。ちょっと手間がかかるので…」


憐鶴を見ていると、仮面生活に不慣れだった頃の自分を思い出す。
顔から首まで包帯姿なのに、健気というか…必死というか。それにしても「特殊請負人」が気になった。


憐鶴はこう言った。

「寝る前に簡単な任務終わらせてから私は寝ますね」
「時間帯は関係ないのか?」

「夜は稀ですが、深夜に任務を遂行したこともあります。任務時にはこのバイザーを着けるんですよ。
モニターの画面が見やすいようにするために」

それはサングラスのような専用のもの。それを着けて任務遂行しているという。


「なぜ、憐鶴が人前に出られないのかわかったが、ゼノク医療チームに関してはわからないままだったな…」


鼎は客用の部屋へと消えた。憐鶴は淡々と機器を操作している。そこに姫島がそーっとやってきた。


姫島は小声。

「憐鶴さん、ヒヤヒヤしましたよ。私達のことを明かすのではないかと思っていましたから」
憐鶴も小声になる。
「そんなわけないでしょう。長官の取り引きで成立しているんですから、医療チームのことは私にも守秘義務があります」


憐鶴は口が固いらしい。彼女も司令補佐同等なせいか、責任感は強いらしいが鼎とは方向が少し違う。


鼎はどこか落ち着かないようだった。地下に1人って…。
成り行きでそうなってしまったから、仕方ないのだが…。それにしても憐鶴は任務モードになると冷たい話し方に変わるようだ。



特殊請負人とは一体?
顔を知られてはいけないとは?ゼノクの謎、解けそうにないな…。

特殊請負人とはどういうものなのかだけは知りたいが。



鼎はもやもやしながらもなんとか眠りについた。





特別編 (6)に続いちゃった…。