料理戦争四日目!
「…俺かよ」
「頑張ってよ、バレット!」
今日の料理当番は(ある意味大本命の)バレットだった。
が、しかし
なかなかキッチンに立とうとせず、辺りをウロウロしている。
不思議に思ったナナキが尋ねた。
「バレット、どうしたの?」
「あー、いや…」
「今日はどんな料理を作るの?バレット!」
「…どーすっかなあ……」
はあー、と
大きなため息をつくバレットに
ナナキは尻尾を振るのをやめ、
首をかしげた。
バレットはバレットなりに
プレッシャーを感じていた。
前回が散々な評価だったため
今回こそは挽回したいと
考えているのだが…。
「…料理、苦手なんだよなあ」
愛娘のマリンにも料理を作ったことがあるのだが
みんなの評価と同じどころが
かなり辛辣なことを言われたので
マリン、はたまたアバランチの面子の食事は
全てティファに任せっきりだったのだ。
炭鉱で働いていた時は
それこそ当番制だったものの
バレット自身、手軽に作れる
野菜と肉を大量に煮込むだけで出来る
鍋料理しか作ったことがなかった。
鍋であれば誰でも作れるだろう
挽回の一手には、ほど遠かった。
「どうすればいいんだ、俺!」
ついに頭を抱えてしまう。
バレットの突然の行動に、
ナナキは一歩後ずさった。
「バレット…どうしたの、変だよ」
「ナナキ…俺はどうすりゃいいんだ?」
「ごめん、バレット、さっぱり分からないよ」
ナナキが哀れみにも似た表情を
バレットに向けた、その時だった。
「あーっ、あっちい!サイダー飲みたいっ!」
ばん、と
キッチンと廊下を繋ぐ扉を思い切り開いたのは
連日続く蒸し暑さに
ウンザリしているユフィだった。
彼女はバレットの姿を見た瞬間、
あからさまに嫌そうな顔つきになった。
「うわ、今日の当番バレット!?サイアク!薬飲んどこ」
「サイアクじゃねえ!俺だって……ん?」
と、その時。
ユフィに対し、怒りの目線を向けていたバレットの顔が
次第に真顔になり、
それから間抜けなものになった
かと思えば、目をキラキラと輝かせ始める。
「…そうか!」
「へ?」
「そうだ、その手があったか!ありがとよ、ユフィ!」
「は?何言ってんの?ナナキ、どーいうこと?」
「…オイラにも分かんない」
呆気に取られている一人と一匹を尻目に
バレットは足取り軽やかに
料理の材料を取りに行った。
そんなバレットが作った料理とは…
「…」
「おめえ…マジか…」
「こ、これは…」
テーブルに並べられているのは
透明なボウルに入ったフルーツポンチ(杏仁豆腐入り)と
白いクリームが乗っかったショートケーキだった。
勿論、パーティー一同、絶句。
「うそっ!気持ち悪いっ!!」
「バレット…何、これ?」
女性陣は驚きと戸惑いを含んだ目で
バレットを見つめる。
「いや、俺はいいと思うよ…うん。意外だけど」
「…ある意味、目を疑うな」
「いや…しかしこりゃあ…おったまげたぜ。デカイ図体でこんな可愛らしいモノを作るたあ」
男性陣の反応は素直なものだった。
「見た目は完璧ですけど…バレットさん、これ、買ってきたやつやないですよね?」
ケット・シーの疑いの一言に
反論したのはナナキだった。
「違うよケットシー!オイラ、ずっと見てたけど、バレットは最初からちゃんと作ってたよ!」
「へっ、どーだ、見たか!」
「…ウソや、信じられへん」
ナナキのその一言に
踏ん反り返るバレットと
納得いかない唸り声をあげるケット・シー。
「一時期、マリンが菓子作りにはまってたことがあってな、一緒に作ってる内に、色々覚えちまって」
「…そういえば…そんなこともあったわね」
納得したように、ティファが頷く。
「うそーっ!ちゃっかり美味しいし!ナニコレ!気持ち悪いーっ!!」
ユフィが悲鳴にも似た声を上げる。
さすがに、店で売ってるものと比べたら
まだまだ荒い部分があるが
それでもしっかりとした
甘味の味だった。
「…バレット、美味いよ」
少しだけためらいながら
クラウドはバレットの方を見つめる。
バレットは得意げに笑った。
「これで汚名返上だな!」
がはは、と豪快に笑うバレットとは正反対に
パーティー一同はすっかり黙り込んでしまった。
「…人間、外見上じゃ分からないこともたくさんあるんだな」
そう呟いたのは、ヴィンセントだった。
料理戦争五日目!
「よっし、作るぞ」
「今日はクラウドかー。腹痛止め飲まなくても大丈夫そうだな」
今日の料理当番はクラウドだった。
クラウドが料理を作る様子を、
お腹が空いて待ちきれない様子のユフィが
ニヤニヤしながら見ていた。
「んで?今日は何を作るのさ」
「兵士やってた時に、よく、ザックス…俺の親友が作ってくれた料理を」
「何それ、どんな料理?」
「色々な具を、ご飯と一緒に炒めるんだけど」
言いながら、リズムよく野菜を切り刻んでいく。
その手際のよさに、
ユフィは感嘆の声を上げた。
「うはー、すげえじゃん!」
「伊達に毎日剣を振ってないからな」
「こりゃ期待出来そうだ!早く作れよ、クラウド!」
「まあまあ」
大きなフライパンに油をひき、にんにくを炒め
野菜と肉を投入する。
ジャッと、いい音が辺りに響く。
次いでご飯、卵を入れ
鷄ガラスープを入れると
辺り一面にいい香りが広がった。
「すげー!」
クラウドの隣にいたユフィが瞳をくるくるさせ、
その様子を見ていた時だった。
「はーっはっは!見ろ!これが俺の本気だ!!」
「!?」
クラウドの突然の豹変っぷりに
ユフィの身体がびくんとはねた。
「えっ!?なに!?」
「サクッとカリッとパラパラと!!最高の味付けと食感を!!うおぉーっ!俺は火と一つになるっ!!リミットブレイク!!」
「え、ちょっ、みんな!クラウドがセフィロスに乗っ取られた!!キモい!!誰かー!!」
慌ててキッチンを出るユフィ。
慌て過ぎて、転びそうになる。
そんな彼女には目もくれず
クラウドは高笑いをしながら
フライパンを大きく振っていた。
(この後、クラウドは武器を持ったパーティー一同にフルボッコにされた)
(どうやら「この掛け声をしないと美味く作れないぞ」とザックスに教えてもらったらしい)
そんなこんなで
なんだかんだあったが
クラウドはなんとか当番をやり遂げた。
彼の作った料理は、五目炒飯だった。
「わ、割と上手く出来たと思う…痛っ!ティファ、もう少し丁寧にやってくれよ」
「ご、ごめん」
クラウドは
泣きそうな顔をしながら
みんなに炒飯をよそってやる。
「この料理は美味いんだけどよぉ…」
「さっきのクラウドの方がインパクト強すぎて、味がよく分かんねーぞ」
複雑な顔をしながらそう評価したのは
シドとバレットだった。
「さっきのクラウドは気持ち悪かったけど、これは美味いよ!クラウド!」
ナナキは炒飯を一気に掻き込み、
素直な感想を述べる。
「…複雑だなあ」
クラウドは皮膚に貼られた絆創膏をさすりながら
口元を尖らせた。
料理戦争、まだまだ続く。
【もちょい続くよッ(^-^≡^-^)!】