アレクとジェイドの絡みがメインのお話です。
先日誕生日だったアレクを書きたかったです。
元々パートナー同士のこの二人のやりとり、楽しいですよね。
ともあれ追記からお話です!!
しんと静まり返った城の廊下を、白衣を翻して歩く一つの影。
長い緑髪が開いた窓から吹き込む風に靡く。
病棟の見回りをしていた彼……ジェイドは廊下の先に気配を見つけ、一瞬足を止めた。
「どなたです?」
敵の気配ではない。
しかし距離と暗さとで、流石に誰なのかまでは計りかねた。
顔を上げたその人物の顔が月明かりに照らされて、ジェイドはふっと笑みをこぼす。
見慣れた、かつての相棒の姿だった。
「お帰りなさい、アレク。帰ってきていたのですね」
今日任務に出ていたはずの戦闘部隊長……アレクだった。
彼の部下たちは先に帰ってきていて、数人いた怪我人は手当を終えて自室に戻っている。
そんな彼らの様子を聞きにきたのだろう。
「あぁ、自我処理にちょっと手こずってな。部下たちの様子は?」
「皆軽傷ですよ、もう自室で休んでいるでしょう」
「そうか、よかった」
ほ、と息を吐く彼を見て、ジェイドは翡翠の瞳を細めた。
そしてゆっくりと彼に歩み寄ると、その頬に触れた。
「煤がついていますよ」
そう言いながら、ジェイドはアレクの頬を拭う。
アレクは驚いたように目を丸くしていたが、やがて気が抜けたように笑った。
先刻まで纏っていた雰囲気とは異なる柔らかな表情。
きっと、帰ってくるまで……否、今ジェイドから部下たちの無事を聞くまで、彼は気を張っていたのだろう。
そう思いながら、ジェイドはそっと息を吐く。
そして、軽く肩をすくめながら、言った。
「もう貴方は前線に立って戦うような立場ではないでしょうに」
今日彼が任務に赴いたのは、部下たちのサポートをするためだった。
いつもこなす任務よりいくらか魔獣の数が多く、危険な任務であったから。
草鹿の騎士たちを連れて行くことも検討したようだが、そこまでの必要はないとアレクが判断した任務である。
本来、部隊長であるアレクは任務の現場には赴かない。
部下たちに指示を出し、彼らを送り出し、報告を受けるのが仕事だ。
それはアレクもわかっているだろう。
ジェイドの言葉にアレクはふっと息を吐いた。
そして軽く肩をすくめて、言う。
「お前はいつも最前線みたいなもんだろ」
医療部隊長であるジェイドは、常に部下たちと行動を共にしている。
防御の術を持たない炎豹の騎士たちと共に任務に赴く際もジェイドが同行することが多かった。
そんな彼も大概最前線にあるようなモノだ、とアレクは言う。
ジェイドはそれを聞くと小さく笑って答えた。
「戦いの場に立つのとはまた違いますからね」
「まぁ、それはそうなんだけど」
アレクはそっと溜息を吐き出した。
「落ち着かないんだよな、俺だけが安穏と安全なとこにいるのは」
そう言う立場ではない。
わかっている。
わかっている、けれど。
部下たちを危険な任務に赴かせて、自分は城で待機する。
落ち着かないにも程がある。
そう思い、共に任務に赴くことも少なくなかった。
決して、部下を信用していない訳ではない。
自分が育てた部下たちだ。
十分に、役目はこなしてくれるだろう。
そう思う、のだけれど……
それでも落ち着かないのだ、とアレクは言った。
「普通の騎士とは違うのですよ。長として安全な場所で待ち、報告を受ける……それが部隊長としての役目なのでは?」
ジェイドはそう言って、首を傾げた。
アレクは反論しようと口を開きかけて……敵わないと思ったのか、溜息を一つ。
「……わかっちゃいるが」
そう言って目を伏せるアレクを見て、ジェイドはくすりと笑う。
そして、言った。
「意地悪を言いましたね、ごめんなさい」
いつも任務に熱心なアレクだから、そして何より気心の知れた相手だから、すこしからかいたくなってしまった。
ジェイドはそう言って、アレクに詫びる。
穏やかに微笑んだ彼は、言った。
「そう言う役目だ、と分かりながらも動かずにはいられないのが貴方ですよね。
部下のことを大切に思っているからこそだと言うことを僕はよく知っていますよ」
ジェイドに向けられる、まっすぐな評価。
それを聞いて、アレクは目を丸くする。
そんな彼を見て翡翠の瞳を細めたジェイドは、言葉を続けた。
「貴方のそう言う気質はよくよく知っていますよ、それに無茶をするのは貴方だけではありませんし」
「……あー、もう」
照れるからそれ以上はやめてくれ。
アレクはそう言って、そっぽを向いた。
日に焼けた彼の肌が、薄く紅色に染まっている。
くすくす、とジェイドは笑った。
彼は、昔からこうしてまっすぐに褒められるのが苦手だ。
照れ臭くなるらしく、逃げてしまう。
けれど、投げかけた言葉は全て本心からのものだった。
怖い、厳しい、と評価されがちなアレクではあるが、そんな彼の思いは、部下たちに怪我をさせたくない、安全に帰したいと言うものだ。
それをジェイドは誰よりも良く知っている。
「ほら、怪我をしているのなら僕の部屋へ。すぐに手当をしなくては」
そう言って、ジェイドは微笑む。
アレクはそんな彼にひらひらと手を振って見せた。
「怪我はしてないよ、大丈夫だ」
「本当に?」
「信用ねぇなあ」
くつくつと笑いながら、アレクは肩をすくめる。
昔から散々怪我を隠してきたせいだろう。
そう思いながら、アレクはかつての相棒と懐かしいやり取りを繰り返していたのだった。
ーー 見慣れた光景 ーー
(昔から変わらない、相棒の様子)
(たとえ立場は変わっても、考え方は変わりはしないから)