ガラッ
「失礼しまーす。」
いつもうるさい君なのに 〜3〜
Haruna
「おいおいニャロ。新学期そうそう保健室に来るとはこれからもお世話になる気満々だな。」
保健室に付いてドアを開け丁寧にも部屋に入る前に挨拶をした陽菜にこの人はまたか。と言わんばかりの表情で言ってきた。
「今日はサボリとかそんなんじゃないもん。部活で遅くなるみいちゃん待ってんの。」
「今日は、ね?これからもサボるのをやめて欲しいものだよ。」
この人は保健室の先生の篠田麻里子先生。
めんどくさがり屋の陽菜は1年生の時から気分で授業をサボってはここに来ていて麻里ちゃんと喋っている。
最初は篠田先生と呼んでいた陽菜もここの常連になってからは『麻里ちゃん』と呼ぶようになった。
この人も最初は『サボリのために保健室を使うな』なんて言っていたが慣れてしまったのかサボっている生徒を全く怒らず逆に話し相手が出来たといってたまに嬉しそうな顔をして陽菜を招いた時もあった。
麻里ちゃんは入ってきたのが陽菜と分かったところでさっきから読んでいた書類に目を戻した。
「そういえばニャロは一応部活入ってるんだから行かないの?」
「美術に興味無いし、行く意味ある?」
「ならなんで入ったのさ。」
「楽そうだったから。」
書類を見ながら話し出した麻里ちゃんは『ニャロらしい。』と言って笑った。
麻里ちゃんといるとくだらない話しかしない。だからこそ楽でいれる。
いつもは何時間も喋ってられるけど今日は違った。手首についてる腕時計を確認して麻里ちゃんはスっと立ち上がる。
「ニャロ今日はこれにて帰りますわ。」
そういうと、なんだか口元がだんだん緩んでいくのが見えた。
「例の彼女さんとデートでもするの?」
「鋭いな。ほんとにニャロは天然に見えて計算脳だね!」
「麻里ちゃんがわかりやすすぎるの。まぁ、楽しんでね。」
『ほーい。』と先生らしからぬ軽い返事をして麻里ちゃんは部屋から出ていった。
んー、また一人だ。
昼間の保健室は何度も来たことはあるが一人になったのは初めてでとても静かだった。
窓から照らしてくる日差しと空いた窓の隙間から吹き付ける春の風が陽菜を眠りへと誘っていった。
ベッドに横たわりみいちゃんが来たらどうせ起こしてくれるだろうと安心して眠りにつこうとした時ガラッとドアがあいた音がした。
「失礼します。」
顔なんて見なくても分かる。このハスキーボイスの主は陽菜がさっきまで考えていた人のものだった。
驚いて横にしていた体を起こすとばったり目が合って同時に優子がニコッと笑った。
「小嶋さん。迎えに来たよ。」
「え?なに?」
それは予想外の言葉で頭が真っ白になって動けないでいる陽菜の目の前に移動した優子は、次は手を差し出して
「だから、迎えに来たよ!」とさっきより少し大きな声で言った。
「陽菜今みいちゃん待ってるの。急に言われても困るから。」
「大丈夫大丈夫!あたし今みいちゃんに陽菜の居場所教えてもらったし。バスケの練習早目に終わらせて美術室いったら陽菜いなかったから聞いたんだ。」
なんで優子は陽菜が美術部だって知っているのかとか、その時みいちゃんはなんて言ったの?とか聞きたいことはいろいろあったけどその質問をするよりも早く優子は『ほら、早く行こ!ランチタイム終わっちゃうよ。』と強引に陽菜の手を引いた。
陽菜は人に何考えてるか分からないってよく言われるけど優子より全然ましだと思う。
陽菜に興味を持たせてあげると宣言してから最後の授業が終わるまで一切喋りかけてこなかったし、放課後も陽菜に目も向けず足早に部活に行った。
なのに部活を早目に終わらせて体育館からわざわざ美術室に行きみいちゃんに陽菜の居場所を聞いてその足で保健室に来て陽菜の手を引いている。
何が起きたかまだ頭が整理できてないまま付いてきたけど本当に何を考えてるのか分からない。分かったのは素晴らしいくらいの行動力って事だけ。
『急に何?』なんて聞いても後ろを振り返ってお得意の笑顔で『いいからいいから。』と返してきた。
陽菜はこのまま聞いても何も答えは出ないと分かって手を繋がれたまま優子の後ろを無言で付いていく。
今朝クラスの前で自己紹介をしていた優子は遠くから見てもわかるくらい身長が小さかったけどこうして後ろから見ていると背中も小さいことが分かった。
こんな小さな体であの背の高い秋元さんと佐江ちゃんとバスケしていると思うとちょっと笑えた。
「何笑ってんだよー。」
「ん、優子ちっちゃい。」
「うるせー。これでも頑張ってるんですぅ。」
ちょっと笑いながら言うと優子はチラッと後ろを振り向いてわかりやすく頬を膨らませて拗ねた。
あんなに完璧って噂の大島優子のこんな可愛い姿どれくらいの人が知ってるんだろうか。
だけどまた前を向いて歩き出す優子の小さな背中が今はすごい大きく見える。
それは優子が陽菜にだけ分かるように繋いでいる手をさっきよりも強く握ってきたから。
言われてないけど『離さない』って言われてるみたいで頼りがいがあった。
この人を好きになる人はきっと見る目があるんだと思う。
そして数多くの人を惚れさせるこの人は予想以上にすごい人だと思う。
陽菜はどうなんだろうか。
陽菜はまだよくわかんないけどこれからもっと優子のことを知りたいと思った。こんな事を言ったらまたみいちゃんに茶化されるだけだから絶対に言わないけどね。
そして、手を引かれたまま陽菜達は校舎を後にした。
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