医学校を卒業したニコラス・ギャリガン(ジェームズ・マカヴォイ)は、父親への反発から世界に出ることを望んだ。地球儀を回して指が止まった場所に向かう。そこはウガンダ。時は折しもクーデターによって政権交代が成された直後だった。
新大統領に赴任したイディ・アミン(フォレスト・ウィッテカー)は、ユーモアに富み人を惹き付ける魅力のある男だった。
ニコラスは偶然アミンのけがを治療したことからアミンに気に入られ、主治医に抜擢される。そこから主治医以上の実力を発揮して出世していくニコラスだが、アミンの行動は徐々に変化し始め―…。
「食人大統領」とも呼ばれる実在の独裁者を、ニコラスという架空の人物を絡めて描く社会派サスペンス。
これは非常にいい映画でした。
私はイディ・アミンという人物を知らなかったし、こうした独裁者の暴力を聞き及ぶことはあっても、その恐ろしさを本当には理解できていないのだと、思い知らされた。権力を持った人物の横暴が、人々にどれだけの恐怖を与えるか、私はわかっているつもりでまったくわかっていなかった。
作中ニコラスがアミンの横暴に気付き、距離を置こうと試みたときのアミンの行動で、その恐怖を私はやっと身近なものに感じた。
アミンに優しく諭され(実際は脅されている)、抱きしめられるニコラス。ニコラスはアミンの抱擁に応えている。
このときに私は、別れたいのに別れまいとして暴力に訴える男のことを思い出していた。相手はアミンほど権力はなかったけど(だからニコラスほど追い詰められてはいない)、まったく似たような状況で、(ニコラスほど追い詰められていなかったのに)とても恐ろしかった。
相手がアミンほどの権力者じゃなかったから、私には逃げ場があったけど、ウガンダの国民には逃げ場がない。その恐ろしさと絶望を想像すると、自分が何を軽んじていたのか思い知らされた。
今でも戦争や紛争・クーデターは、世界が動くために必要な時もあると思っている。そして、独裁者と呼ばれる人々も決して悪人ではないのだと思っている。
それでも、そこにある痛みについて出来るだけ多く理解していたい。現実を知っておきたい。
自分の意見が何を肯定しているのか、わかっていたい。
そのために力を貸してくれる。真のエンターテイメントとは、きっとこういうものなのだ。
これは漫画でも小説でもそうだけど、その作品に触れた人がその後の人生により広い視点を持てたり、その作品に触れたことでいいものを植え付けられたり、そういうものが真のエンターテイメントなんだと思う。
悪者をやっつけて爽快感を得させたり、聞こえのいい言葉を並べて楽しませるだけの作品も、あったっていいと思うけど、それはエンターテイメントじゃない。
楽しませながら、いいものを植え付ける。それでこそエンターテイメントだ。私たちの限りある時間を提供するに値する。人生には限りがある。なるべくいいものに、時間とお金をかけてほしい。
この映画は素晴らしい。
夢中になって観ていたのに、勉強にもなった。
価値ある時間だった。
「死んで当然だが、死んだらそれまでだ。生きていれば罪の償いもできる」
「私はもう耐えられない。憎しみ合いはもうたくさんだ」
ラストの生と死の対比に胸を打たれた。
あのシーンは恐ろしく、悲しかったけれど、美しかった。
アマゾンのカスタマーレビューを見ると、より深くこの映画を知ることができる。ぜひ参考にしてほしい。
話題:実話を元にした映画。
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