時間遡行軍6体が斬り捨てられたと同時に、空間の歪みが消えた。
それを見た咲良はホッとして、小狐丸に駆け寄った。
「これで終わり?」
「そのようですね。正直増援が来ていたら、ゾッとしていましたね。」
「…………ウン、ソダネ。」
咲良は衣裳が少しボロボロになった小狐丸を見て、彼に抱き着いた。
「………ゴメン。私が正式な審神者だったら、
鍛刀をして増援を呼ぶことができたと思うんだけど………。」
「主様が謝る必要はございません。
ただ、主様が早く危険を察知してくださったおかげで、多くの命が助かりましたのもまた事実故。」
「…………ありがと、小狐丸。」
その後、時の政府が遣わした監査官などがやってきて、被害の状況などを調査した。
「……………ええっと、小鳥遊咲良さんでしたっけ。」
「はい、そうですが。」
「………小狐丸と君の話を統合すると、寂れた神社で君が刀に触れたら小狐丸が顕現したということで
良いんだね?」
「そうなりますね。」
「…………では正式に審神者になってもらうことになりますが、よろしいですか?」
「まあ、そうなっちゃうでしょうねぇ。
あ、でもうちの親、多忙ですけど当人の意思重要で良いですか?」
「………多忙でしたら仕方がないですね。」
話がこじれることなく順調に進めていく咲良と政府関係者を見て、児童達はヒソヒソと話をする。
「………小鳥遊さん、頭がお花畑かと思っていたけどそうじゃなかったんだ………。」
「し、聞こえちゃうよ。じゃあ、霊感があるっていうのはホントだったんだ…………。」
「嘘つきでもなんでもなかったんだな………………。」
「………ではこちらの書類にサインを。」
「はいはい。これで正式に審神者になるんですよね?」
「ええ、近日中には本丸も用意しますのでまたご連絡致します。」
「あ、はい。わかりました。
………ちなみに初期刀については、小狐丸で良いですか?」
「そうですね。ただ、それとは別途に選んで貰います。」
「了解でーす。」
続く。
空間の歪みから現れたのは時間遡行軍であった。
その数、6体。
「…………………何あれ…………。」
誰かがポツリ、と呟いた。
そして聞こえてくる、悲鳴と怒声。
時間遡行軍6体は空間の歪みから体育館の床に降りると、ギラギラとした瞳を児童達に向けた。
「……………………な、何で、時間遡行軍がここに!?」
「こ、子供達を避難させろ!」
「ど、何処にですか!?」
教師達がパニックに陥いる中、時間遡行軍は咲良の姿を見つけると、刀を向けた。
そして、狙いを定めて、襲い掛かってきた。
「………小鳥遊さん、危ない!!」
「………小狐丸!!」
咲良が叫ぶと、小狐丸が姿を現した。
鞘から太刀を抜き、小狐丸は時間遡行軍1体を斬り捨てた。
「主様は私が守ります故、ご安心を。」
「…………こいつらが時間遡行軍ってことは、やっぱり狙いは私?」
「でしょうな。主様はまだ正式に審神者になられていませんから、
審神者になる前を狙ってきたのでしょう。」
「………………まだ本丸とか初期刀とかもらっていないのに、何で………。
あ、そっか。小狐丸に呼ばれたから。」
「はい。恐らくはそれが原因かと。」
「えー…………………。とりあえず、残りは5体だね。
増援が来る前にちゃっちゃっとやっつけちゃおうよ。」
「かしこまりました、主様。」
仲間を斬り捨てられて、時間遡行軍は小狐丸に刀を向けた。
「………さて、では踊りますか!!」
柄に力を込めて、小狐丸は2,3体の時間遡行軍を一気に斬り捨てていった。
…………4体の時間遡行軍が斬られ、残るは2体となった。
後退する時間遡行軍を逃がさないよう、小狐丸は距離を詰めていく。
「……………痛いですよ、野生故!!」
そして、距離を詰めた小狐丸は2体を斬り捨てた。
続く。
「小鳥遊さん、おはよー。」
「おはよー。」
次の日、小狐丸を連れて咲良は学校に登校した。
案の定、彼は他の人間には視えていないらしく、ひとまずは安心した。
「(これで何もなければ今まで通りと何ら変わりない生活を送れるはずなんだけどなー…………。)」
「おい、見ろよ。また霊感女が来ているぜ。」
「どーせ、嘘つきなんじゃないのか?」
「ちょっとアンタ達、そんなことを言うのやめなさいよ!」
「そうよそうよ、嘘つきとか言ったら失礼じゃない!」
「小鳥遊さんは頭がお花畑だけど!」
「ちょっとちょっと、お花畑にはなっていないから!」
男子達の陰口に対抗する同級生に咲良は突っ込みを入れた。
毎度毎度こんな感じで、女子と男子が対立しているのだ。
まぁ、だからと言って親が首を突っ込んできたことは1度もないのだが。
「…………………小狐丸、子供の言うことだからね?いちいち突っかからないでね?」
「ええ、わかっていますとも。」
「…………ホントにわかっている?」
ジト目で小狐丸を見ると彼は明後日の方向を向いた。
「(ホントに大丈夫かなぁ……………。)」
給食の時間が終わり、お昼休みの時間に差し掛かった頃、全校集会が開かれた。
「えー、最近、通り魔が出没しているらしく、
えー、しばらくの間、保護者の皆さんに登下校についてもらうように……………。
隣の地区では斬りつけ被害に遭った子もいますので、
警察や地域パトロール隊の方の協力の元、警戒を強めますので…………。」
校長の話を聞いていた咲良は違和感を感じ、キョロキョロと周囲を見回した。
「どうしたの?小鳥遊さん。」
「………ちょっと、嫌な予感がして……………。」
咲良が頭上を見上げると同時に、空間に歪みが現れた。
「………………え?」
続く。
小狐丸を連れて帰った咲良は、一軒家に到着した。
「………そう言えば小狐丸って、視える人にしか視えないの?」
「はい。視える人にしか視えません。」
「………じゃあ、視えない人には視えないのか………。
でも視えるようにはできるんだよね?」
「ええ、そうですが。
……それがどうかなされましたか?」
「小狐丸、ルールを設けるからそれを守ってね。
でないと、知らんぷりするから。」
咲良の設けたルールというのは単純なものだった。
@24時間365日そばにいてもいいが、
自身の悪口や陰口の類を言った者に斬りかからないこと。
A子供同士の喧嘩は
咲良から言ってこない限り、基本的には手を出さないこと。
「………………まぁ、大雑把に言えばこの2つのルールさえ守ってくれれば
それでいいかなぁ、的な。」
「主様の命とあれば、それを守るのが私の役目故。お気になさらず。」
「暴力にまで発展したら、さすがに止めてね。」
「はい。」
「関係性を疑われたら、保護者代理ってことにするから。」
「保護者代理ですか。」
「うん。………まあ、小狐丸って見た目に反して主様大好き感が満載だもん。」
「…………そうでしょうか?」
「鬱陶しいとかそういう意味で言ったわけじゃないからね!?真に受けないでね!?」
慌ててフォローする咲良に小狐丸はクスクスと笑った。
「では、そういうことにしておきましょうか。」
「(小狐丸が単純明快でよかった…………。)」
ホッと一息をついた咲良は一安心をした。
続く。
「…………刀?凄い綺麗………。」
本殿の中に入った咲良は、鎮座している刀に触れた。
すると、刀が光り輝き、白髪に赤目の成人男性が姿を現した。
「……………え?」
「大きいけれど、小狐丸。いや、冗談ではなく。
まして偽物でもありません。
私が小、大きいけれど!!」
「えっと、小鳥遊咲良って言います………。
………………………小狐丸…………?」
「はい。貴女が私の主様ですか?」
「………は?主様?」
「ええ……………ですが、まず先にあれを斬らねばなりませんね。」
「…………あ、そうだった。あれに追いかけられていたんだ。」
「主様はそこでお待ちを。すぐに終わります故。」
そういうと小狐丸は本殿から出た。
それと同時に百目鬼のような何かが襲い掛かる。
小狐丸は鞘から太刀を抜くと、一太刀でそれを斬り捨てた。
「す、すごい…………。」
「主様の霊力があってこその力ゆえでございます。」
「…………何で私のことを主って呼ぶの?」
「貴女が私を目覚めさせたからですよ、主様。
ここに来る前、何かしらの前兆があったはずです。」
「………あ、そういえば狐が私をここまで案内してくれたの。」
「ほう。それはそれは。恐らく、ここにいた神の眷属だったのでしょう。
とは言っても、ここは寂れてしまった故、貴女を案内するのが精一杯だったみたいですが。」
「……………言っては悪いけど、ここ、廃れて結構時間が経つものね。」
「はい。」
「…………何で、ここにいたの?」
「私はずっと誰かを呼んでいました。そして、それに気づいたのが貴女だったのです。」
「……………へー…………。何か最強の御供って感じがするなぁ…………。
じゃあ、うちくる?パパもママも仕事で忙しいからほとんど家にいないし。
喋り相手がいるのは嬉しいことだし。」
「はい。主様のお好きなように。」
続く。