「…………てなわけで、今度彼氏が家に来るから。」
初音美穂がそういうと両親と弟は固まった。
「………まあ、彼氏?良かったわね、美穂。」
「………う、嘘だろ?姉ちゃんに限って彼氏なんて………。」
「そ、そうだ。嘘だと言いなさい。」
「嘘じゃないわよ。ホントよ。」
「まぁまぁ、準備しないといけないわね。
今度、出かける用事があったけれど延期にしましょう、貴方。」
「わ、悪い男じゃないだろうね?」
「あら、良い男よ。……とにかく、今度連れてくるから!!!
じゃ、大学に行ってきまーす!」
パタン、と玄関を後にした美穂を見送り、にこにこと笑う母の瑞枝をよそに
父の孝一と弟の颯太は顔を真っ青にした。
「さて、と。どんな相手が来るのかしらね?」
「………絶対ロクでもない男だ……。」
「………うん、絶対ロクでもない男だよ……。」
………そして、迎えた当日。
「……初めまして。美穂さんとお付き合いをさせていただいています、姫宮綾人と言います。」
「…………。」
「…………。」
「まぁまぁ、姫宮グループの長兄さん?凄いわね、美穂。」
「この間、舞台を観に行ったって言ったじゃない?その帰りに傘をさして貰ったのよ。」
「まあ、素敵なお話ね。うちの娘なんかで良いのかしら?」
「ええ。美穂さんのおかげでお見合いを片っ端からお断りすることができまして……。
私にはもったいない人物です。」
「あらあら、長兄さんともなると大変よね。
社会的地位を狙ってくる馬鹿がいるんでしょう?」
「そうですねぇ。その点、美穂さんは良い女性です。」
「あらあら、普通に育てただけなんですよ。……ねぇ、貴方?」
「お、おぅ……。」
「……なぁなぁ、綾人さんってゲームすんの?」
「ポケモンはするさ。」
「………ガブリアスと言ったら?」
「いわなだれは必須だろう。ストーンエッジよりも命中率が高い。」
「……だよねー!!」
ハイタッチをする綾人と颯太に孝一はため息をついた。
「父ちゃん、綾人さんは絶対良いよ!良い人じゃん!」
「颯太、何を言っているんだ……。」
「そうよねぇ……あ、式の方はまだよね?」
「さすがにそれはご家族の方と相談しようかと思っていまして……。」
「でもできちゃった婚は嫌だから、先に済ませた方がいいかしら?」
「瑞枝、話!!飛んでないか!?」
「あら貴方、喜んでいないの?」
「いやいやいや、色々と突っ込みたいんだが!!」
「姉ちゃんは和装と洋装、どっちにするんだ?」
「幾ら何でもそれは早すぎよ…。
でもおばあちゃんの衣裳を着たいし……。」
「綾人君はどっちがいいのかしら?」
「私は和装でも洋装でも構いませんよ。」
「だから、話が!!色々と飛躍しすぎなんだって!!」
……悲しいかな、孝一の話を誰1人とて聞いている者はいなかった。
………それから数十分後。
「やぁねぇ、貴方。」
「父ちゃんも人が悪いなぁ……。」
「………ぐすん、何で私の話を聞いてくれないんだ……。」
「愉快な家族だな、美穂。」
「あはは、まぁね。……でも、綾人のご家族もなかなか愉快よ?」
「それはどうも。」
「………まぁ、ロクでもない男だと思っていたがそうでもなかったようだ。すまないね。」
「いえ、我が家はロクでもない男が多いですから。」
そういうと綾人と孝一はにこにこと笑い合った。
「……娘のことをよろしくお願いします。」
「………はい!」
終わり。