「………ああ、香ばしい匂いがするな。」
「シオン、茶屋から今月出来の良い茶葉を頂いたんだ。
ぜひ、君にも飲んで欲しいと言っていたよ。」
「………そうだな。少し、休むとしよう。」
とある日の麗らかな午後、双葉は教皇であるシオンの仕事の手伝いをしていた。
最初は断っていたシオンだが、ここ数日ロクに寝ていないことを指摘され、
渋々彼女が手伝うことを承諾したのだった。
「…………しかし、さすがに教皇となると書類整理が大変だな。」
「何も労働だけが教皇の仕事ではないからな。
………すまない。」
「何、気にするな。」
双葉が女官達に適切な指示を出し、書類整理を手伝ってくれたおかげで
シオンの仕事量は大幅に減った。
「…………………本当に、アルバフィカに瓜二つだな。」
「…………ああ。容姿はまるっきり瓜二つだ。
でも、対毒体質までは引き継がなかったらしいから、そこについては安心してくれ。
毒を持って生まれていたら、お母さんは出産時に死んでる。」
にこやかに笑う双葉にシオンはため息をついた。
「笑って済ませる話ではないが………。」
「己の毒が周囲に影響を及ぼすのではないかと思っていたあの時とは違う。
こうして普通に触れることもできるし、ハグもできるんだ。
………まあ、昔とは違って大進歩だけどね。」
書類を片付け、双葉はくたぁと背伸びをした。
そして書類を持ってきた女官にアフタヌーンティーの用意を頼んだ。
「…………そうか。アテナとペガサスの聖衣だけが帰還したんだな。」
「………ああ。なかなかペガサスの聖闘士が決まらないというのも事実だ。」
「………いっそ、私とシオンで作るか?子供。」
「……………!?」
「………あ、いや、忘れてくれ!妄言だ、妄想だ!単に自分が女性だということをすっかり忘れていた!!」
顔を真っ赤にして両手をバタバタと振る双葉にシオンはクスクスと笑う。
「………そう簡単には忘れられないさ。何分、お前は孤立しがちだったからなぁ。」
「それは昔の話だろう!!」
「………ちょっと、もう少し前が見えない……。」
「………しかし、アテナ。これ以上、前に出ますとバレる危険性が………。」
「…………お前達、言葉を発している時点でバレバレなのだが。」
「そうだぞ。………まったく、アテナも何を考えているのですか。」
「………だって、せっかく進展しているのに邪魔したらもったいないじゃない!!」
シャルロッテが叫ぶと同時にお腹の虫が宮内に響いた。
「……………アテナ。おやつにしましょうか。」
顔を真っ赤にしながらも、微笑んだ双葉にシャルロッテははぁい、と年相応の子供の表情をした。
続く。