西澤の唐突な提案により、本部からゼノクへと派遣されることになった隊員数名。その面子はというと…。


「納得いかねぇ。なぜにゼノク隊員がいながらも、わざわざ派遣に行かなければならんのか」

御堂、イライラ。鼎はいつも通り。

「御堂も派遣メンバーか。私もだが、あまり気にならないな」
「鼎はゼノク、前から気になっていたからだろ。行けるチャンスが出来て良かったな」
「長官と西澤の意図がわからないのが不安だが…」


北関東エリアに出没しているメギド戦闘員と関係してんのか?
ゼノクにはゼノク隊員がいるってのに…。



群馬県某町・ゼノク。施設には本部や支部と同じように隊員用のトレーニングルームが複数ある。
そこにまるで忍者のように素早い動きをする隊員がいた。武器はクナイと棒手裏剣を使って鍛練中。


「どおりゃあ!」
投げたクナイは的に突き刺さる。

忍者のような隊員の名は上総(かずさ)。隊員の制服も忍者服のようにカスタムしている。


「上総くん、そろそろ休憩しましょうか」
「二階堂、お前いたのかよ!」

彼女の名は二階堂。ゼノク職員だが、度々トレーニングルームを訪れては隊員達に差し入れをしているお姉さんのような人。


上総と二階堂は顔馴染みだった。


「二階堂、お前…隊員にならないのかよ?」
二階堂は右腕を見る。それと左脚も。

「長官みたいに戦えるかなんてわかりませんからね。こんな身体じゃ」


二階堂の右腕は義手、左脚は義足だった。パッと見わからないが、最新鋭のものを装着している。


「そんなん関係ねーよ!二階堂はさぁ、市民守りたくてゼルフェノアに入ったんだろが…。本当は戦いたいんじゃないのか?」
「今はまだ決めかねてるから…」


上総はトレーニングルームを出ていった。二階堂の義肢は日常用のもの。
長官のように戦えたら、私は少しは変われるのだろうか…。


トレーニングルームに二階堂の同僚、鹿本がやってきた。

「ニカさん、やっぱりここにいた。本部から応援の隊員が来るの、今日だって!」
「本部?…何人くらい…」

鹿本はけろっとしていた。

「5人だって」
「5人…」


多いのか、少ないのか微妙な人数すぎる…。



しばらくして。ゼノクに本部隊員5名が到着。西澤は出迎えた。

「本部からの隊員だね。さぁ皆さん、どうぞどうぞ」
「おい西澤、これはどういう意図なんだ?ゼノク隊員にやらせればいいだろうがよ」

御堂、少しイラついてる。西澤はスルーしつつ、話を進めた。


「御堂、ゼノク隊員で精鋭レベルの者は極端にいなくてね〜。数えるだけしかいないんだ」


ゼノク隊員って、職員の1、2割が隊員なんだっけ…。


「今回の件はどうも怪しいからさ、宇崎司令は君たちを派遣したんじゃないかなぁ。実績もあるし」

この面子を選んだのはその室長なんだがな…。
5人の面子は晴斗・鼎・御堂・彩音・桐谷。


西澤はざっくりとゼノク館内を5人に案内する。

「ここは東館。主に入居者が活動拠点としている場所だよ。基本的にゼノクの入居者は本館・東館・病院・居住区のどこかにいるからね。
だから入居者に会いたければ、本館か東館を当たればいい。本館のインフォメーションに聞く手もあるね」

「東館には学校らしき棟もあるな」


鼎は何かに気づいた。東館には小さな学校らしきものがある。院内学校みたいな小さいものだが。


「紀柳院、気づいたか。入居者には子供もいるから、彼ら用に整備したんだよ」


御堂も何か気になった様子。


「西澤、ゼノク入居者が極端すぎる気するのだが。なにあの全身タイツみたいなスーツ…。顔まで覆ってるから誰が誰だかわかんねぇな…」
「あぁ、あれね。あのスーツは『ゼノクスーツ』っていうんですよ。見た目はあれだが、性能はそこそこいい。ゼノクスーツは治療用なんだ。入居者の希望によって着ている人もいる。
ゼノクは入居者自体少ないから、スーツ着用者は目立っているけどね」


ゼノク…どおりで異様に見えるわけだわ…。スーツ着用者、意外と多い気がする…。パッと見6割くらいか?
後遺症のランクにもよるのだろうか…。ゼノクスーツはカラーバリエーションが多いせいか、女性はかなりわかりやすいな。

まさかこのゼノクスーツを開発したのも…。


「御堂、気づいた?ゼノクスーツを開発・実装したのも長官なんですよ」


やっぱりな…。しかしなんで見た目が全身タイツなんだよ…。もっといい方法なかったのかよ。なんかなー…。


御堂が思っていることとは裏腹に、入居者達は慣れているようだった。

なんか馴染んでるな…。慣れって怖い。



西澤は一通り案内し終えると、組織用宿泊棟を最後に案内した。

「ここで君たちは泊まってね。はい部屋の鍵。ゼノク職員や隊員とはそのうち顔合わせするだろうから、ま…緊張しなくていいからさ」


緊張しなくていいからっていうけど、緊張するぞ!?



その日の夕方。鼎は東館を訪れた。流葵が気になったから。

流葵はどこにいる…?


東館を右往左往した後、鼎は本館のインフォメーションを訪ねた。
そこには2人の女性職員が。1人は至って普通の制服姿だが、もう1人は薄いベージュのゼノクスーツを着ているのだろうか…顔がない。まるでのっぺらぼうだ…。

ゼノクスーツにウィッグと制服…暑そう。


鼎はインフォメーションに流葵のことを聞いてみた。


「桜井流葵を探しているのだが」


本部の仮面の隊員を間近で見た2人は内心テンションが上がっていた。
き…「紀柳院鼎」って、この人なの!?聞いてた通り、冷淡な言い方してる。仮面は本当だったんだ…。


インフォメーション担当の1人は、ゼノクスーツ姿の彼女に指示してる。

「烏丸さん、流葵さん探してるって」
「は、はい…」


どうやらこのゼノクスーツ姿の職員はおどおどしているように見える。しかし、なぜに職員がゼノクスーツ姿なんだ?
ちらほらゼノクスーツ姿の職員も見たが…。


「あ、あの…桜井流葵さんは居住区に戻られたみたいです」
「そうか…ありがとな」


鼎はインフォメーションにいたゼノクスーツ姿の『烏丸』が妙に気になった。
なんであの姿なんだろう。入居者に配慮したとかはあり得る気がする。



インフォメーションでは烏丸がもう1人の職員にこう呟いていた。


「私、紀柳院さんに奇異な目で見られたんでしょうか…」

「いや、そんなことないよ。紀柳院さんも仮面姿だからイーブンだ。本部の人達は、ゼノクの光景に慣れるまでちょっとかかるかもね。
ゼノクスーツ姿の人間に慣れないと、ここにはいれないからなぁー。烏丸さんはそのスーツのおかげで動けているみたいだけども」

「顔が見えないんで作業しやすいから…」
「烏丸さん、人見知りレベルがヤバいよ。スーツが薄いベージュなせいで、動くマネキンになってる…」



組織用宿泊棟。鼎は彩音の部屋を訪ねた。
彩音はさらっと鼎の問いに答えた。

「ゼノクスーツの職員?…あぁ、それね。なんでも入居者に配慮して、希望者はあのスーツ着てるんだって。インフォメーションにいた烏丸さんもその1人みたいだよ」



本部・休憩所。時任は霧人と話していた。


「しぶやん、本部はあたしらで大丈夫かねぇ?」
「…大丈夫なんじゃないの。…俺、仕切るから」

「私さぁ、ゼノクに行けるとぬか喜びしちゃったんすよ」
「なんで?」
「ゼノクにあたしの兄貴がいるんだ。たぶん会えてもゼノクスーツ姿だから顔…見れないんだけどね」


ゼノクスーツ?


時任はタブレットをいじり、霧人にゼノクスーツの画像を見せた。

「見た目は完全にあれなんすけど、これがゼノクスーツっす。カラーバリエーション豊富なんで、この画像は一例に過ぎません」

「全身タイツじゃんか…」
霧人、少し引いてる。


「ちなみに後遺症が重度になると、ゼノクスーツも厚くなると聞きました。兄貴は軽度だけど…なかなか良くならなくて」
「お前、逆にゼノク行けなくて良かったんじゃないの?お前の兄貴も治療に耐えてるはずだ」
「…そうだよね。しぶやんありがと」



本部から晴斗達が派遣されてから2日目。ゼノク周辺に釵游が出現。
釵游はゼノクを襲撃しようとしていた。

蔦沼だか誰だかわからないが、この施設をとにかく襲撃すればいいんだろ?





第22話(下)へ続く。