蔦沼長官vs鳶旺(えんおう)戦から約1週間後。本来ならゼノクへ派遣された本部隊員は今日、本部へ帰る日なのだが。


ゼノク・執務室。

晴斗達、鼎を除く4人は長官がいる執務室を訪ねた。


「あ、あの…蔦沼長官にお願いがあって来たのですが…」
晴斗は何とか声を絞り出す。御堂は晴斗の肩をポンと軽く叩く。御堂なりの「頑張れ」という意味らしい。


「もう少し、俺達をゼノクへ置いて貰えないでしょうか。…その…鼎さんを置いて本部に帰りたくないんです」

蔦沼は晴斗が懸命に声を出している姿を優しい眼差しで見る。蔦沼の側には南が控えているのだが、蔦沼はいきなり椅子から立つと晴斗のところへ来た。

「君たちのことだからそう来ると思ったよ。既に本部には連絡済みだ。紀柳院と一緒に戻りたいんだね」


彩音は気になっていたことを聞いてみた。
「蔦沼長官、あの日…元老院の長は本当に鼎を狙ったのでしょうか…」

「その件か。僕たち上層部も調べているが…暁と御堂の証言からするに、鳶旺は『暁と紀柳院』双方を狙っていると見て間違いないだろう」


俺と鼎さんが!?


「鳶旺は紀柳院の本名を知っていた。そして暁のことも知っていたのが明らかになった。紀柳院は暁を庇ったんだ、捨て身でね」
「鼎さんの容態はどうなの!?」


晴斗はかなり気にしている様子。思わずタメ口に。

蔦沼は答えた。


「紀柳院の状況だが、あの棘の1つが体を貫通していたことが判明した。あと1pずれていたら紀柳院は即死だった」
「えっ…」
「まだ安静だから一般病棟には移れない。回復を要するんだ…」


この話を聞き、晴斗達は複雑な面持ちに。蔦沼は付け加えた。
「致命傷を免れただけマシだから。紀柳院と一緒に戻るまでの間、ゼノクを守って欲しい」



本部・司令室。
宇崎は蔦沼からの連絡を受け、元老院の狙いを探るように。

「晴斗と鼎が狙われた…。鼎はなんで無茶したんだよ…あいつは…。
元老院の狙いは『都筑悠真』なのか?晴斗は煽られたっていうし…。元老院からしたら、鼎(悠真)の生存は都合が悪いのか?」



ゼノク・司令室。
晴斗は西澤に呼ばれていた。

「暁、調査の現段階ですが…どうも君の能力(ちから)が関係してるみたいでね」
「能力?」

晴斗はきょとんとしている。
「あの超攻撃的な発動は君の父親・陽一も隊員時代に同じものを使っていたんだ」
「父さんも!?」
「どうやら暁家はヒーローの血筋なのか、その能力(ちから)は君に引き継がれたようなんだ。元老院はそれをどうしたいのか、狙っているらしい」


あの超攻撃的な発動は偶然じゃなかった!?
晴斗はおずおずと聞いてみた。
「鼎さんは…悠真姉ちゃんはなんで…」

「紀柳院に関してだが、どうやら都筑家は潜在的な能力(ちから)があったらしく、その能力が強いのが悠真…つまり紀柳院だったわけです。
暁は紀柳院とは事件前から互いに知ってる仲だが、何か悠真について知ってないか?彼女の能力は謎が多いが、元老院が狙うほどとなると…」
「すいません、俺…わからなくて…」

「潜在的なものだから、事件後に顕著に出たのかもしれない。現に悠真は事件後、名前を変えた後に組織の施設にしばらく匿われていた。北川さんなら知っているかもしれない」


「北川」って…ゼルフェノア最初の司令だ。



晴斗は司令室を出た。暁家と都筑家に隠された秘密を知った気がしてまだ動揺している。
あの発動は父さん譲りのものだった!?嘘だろ!?

偶然にしては出来すぎてるとは感じてた。


12年前の怪人による連続放火事件、最後のターゲットは都筑家だった。
晴斗はふと、何かを思い出した。

悠真姉ちゃん、ストーカーみたいな得体の知れないものにつけられてたと言ってたのって。まさか。



異空間・鐡の本拠地。


「元老院のやつ、躍起になってんな。あの2人を狙っていたとはね〜。暁晴斗と紀柳院鼎の2人か。鳶旺があの技使うってよほどだぞ?」

あの技とは赤黒い棘のこと。見た目は血管みたいに枝分かれしている。


「鳶旺はあの能力(ちから)を使って、2人の能力を奪う気なんだろうよ。世界を破壊するためによ」
「鐡様、いつの間に調べたんですか?」


杞亜羅(きあら)が聞いている。鐡は米粒くらいの黒い丸い物体を見せる。

「この超小型メギド達を元老院の屋敷に侵入させたのよ。そしたら隠し部屋の中も判明した。元老院…もとい、鳶旺のやつはこの世界を壊したいらしい。
俺からしたら暁の能力奪われたら困るんだよな〜。あいつは俺の遊び相手だ。紀柳院鼎…あの仮面の女…本人は気づいてないが、潜在的な能力がある。あの仮面の女の能力はわからないが…元老院から奪われたらオシマイなのには変わりねぇ」

「ゼルフェノアに手を貸すのか!?」
釵游(さゆう)は鐡の発言に驚いてる。鐡には鐡の策があるようだ。


「『元老院』という、共通の敵が出来たんだ。一時的に同盟を組もうじゃないか」
「そんなん信じますかね…。ゼルフェノアは攻撃してきますよ!?」

「なーに、大丈夫だ」


どこが「大丈夫」なんだよ鐡!敵と同盟組むって…。意味わからない…。


「杞亜羅・釵游、俺達は元老院を潰すんだろ?この場所は元老院に完全に支配されちまっている。元はそうじゃなかったのによ」



鳶旺戦からそれから約1ヶ月が経過した。





第30話(下)へ続く。