「また来たのか、蔦沼。もう私を止められないよ」

都内某所。鳶旺(えんおう)はそう言うと怪人態へと変貌。蔦沼長官vs鳶旺は3回目の戦いに。


「止めてやるさ」

蔦沼は両腕の義手をそれぞれ展開。
鳶旺は枝分かれした翼のような、赤黒いものを展開→蔦沼を執拗に狙う。蔦沼はそれを避けながら銃撃と火炎放射を同時に行う。

鳶旺は怪人態になったことで、人間態よりも強化されていた。蔦沼は苦戦を強いられる。
左腕に強力な雷撃を纏い、鳶旺に放つが力の差は歴然。蔦沼は鳶旺の攻撃を立て続けに受ける。


「この程度か?蔦沼」

鳶旺は嘲笑う。このままでは――
鳶旺怪人態は人間態とは桁違いに強い。蔦沼の秘書兼用心棒の南も駆けつけるが、蔦沼はかなりダメージを受けている。


「長官、一旦退いて下さい!あなたが死んだらゼルフェノアはどうなるんですか!!」

南の必死の説得に、渋々蔦沼は退くことに。



本部では晴斗達を鳶旺の元に向かわせる。
組織車両内ではなんとなく晴斗が恒暁(こうぎょう)に話しかけた。


「前から気になってたけどさ、なんで恒暁と鷹稜(たかかど)は人間化したんだ?」

車内には鷹稜もいる。鷹稜は鼎の隣にいた。
「それは主に強くなって欲しいからですよ。現に2人とも私達が人間の姿となってからは戦闘力が格段に上がってます」
「鷹稜の言う通り。俺らはお前ら使い手を鍛えたかったの。全てはこのラスボス戦のためにな」


全てはラスボス戦のためだった…?
鼎は思わず鷹稜に聞く。

「本当にそれだけか?」
「私は…鼎さんと話したかったんです。直接。過保護になってしまいましたが……」
「晴斗・鼎。ラスボスがいる場所に着いたら俺達は元の姿に戻る。
以前よりも2人は俺らの力を発揮出来るはずだ。元の姿に戻っても、気持ちは通じてるからな。相棒なんだから」


御堂は微妙な面持ちでこの使い手とブレードの会話を聞いていた。御堂は助手席、桐谷は運転席にいる。


「桐谷さん、俺達倒せるかな」
「御堂さんが弱音を吐くなんて珍しいですね」

「あの長官が一方的にやられたと聞いて戦々恐々してんだよ…!
長官はなんとか離脱出来たみてーだが、長官がやられたとなると敵は怪人態になってるとしか思えない」



本部・解析班。朝倉は矢神と共にある解析をしている。それは鳶旺が作り出した闇の範囲拡大について。

「元老院の元締めがやった闇、このままのペースで行けば明日には首都圏がまるまる闇に飲み込まれてしまう…」
「チーフ、闇を食い止める方法ないの!?」

矢神、パニクる。朝倉は神(じん)に聞いた。
「神さん、何かある?」
「解析班に出来ることは限られてるだろ。戦闘隊員を信じるしかない」



都内某所。隊員達は到着すると、恒暁と鷹稜は元の対怪人用ブレードの姿へと戻った。
御堂は早速銃を構える。桐谷もマシンガンを装備。

その後、もう1つの組織車両が到着。そっちには彩音・時任・霧人・囃・二階堂・上総(かずさ)が。


「暁くんときりゅさん…あれ?恒暁と鷹稜が元に戻ってる…」
時任は目を丸くした。
「元の姿に戻っても相棒には変わりないだろ」

鼎がそっけない返事をする。そこに鳶旺が先制攻撃。


「また来たか、愚か者達が」
「誰が愚か者じゃ、ゴルアァ!!」

囃、不良のような返事をしてる。囃は野太刀型ブレードを抜刀、鳶旺に攻撃するも効いてない。

「効かねぇ!?」
「私が行きます!」
「二階堂、お前突っ込む気か!?」

上総は止めようとしたが、二階堂は戦闘兼用義手を展開。さらに左脚の戦闘兼用義足も展開。
「私が囮になりますっ!」
「二階堂やめろって!!」


上総は悲鳴のような声をあげる。二階堂は鳶旺を捉えた。
そして一気に最大出力の雷撃で攻撃するも、鳶旺は二階堂の右腕を力強く掴んでいた。そして、右腕が折れる音がした。

右腕は義手。義手はピシピシと音を立て、ショートしているのか小さな火花が見える。


「これでその腕は使えまい」


二階堂は投げ落とされた。

上総はなんとか受け止めたが、二階堂の右腕の義手は使いものにならなくなっている。生身だったら確実に骨が折れていたはずだ。


これが鳶旺怪人態…。


晴斗と鼎、御堂達も鳶旺相手に攻撃を仕掛けるも相手の圧倒的強さに圧される。
ここにいる全員が詰む様相となった。


ブレードを発動させても効かない!?
鼎は戦闘に制限時間があるため、慎重な戦いを強いられることに。


この闇の支配を晴らすには…。


そんな中、鐡も参戦。鳶旺怪人態相手に対等に戦えるのは鐡だけという様相になっていた。
鐡は人間態のまま、戦っている。そして傷つき、ぼろぼろになった晴斗達を鼓舞する。

「元老院をぶっ潰すんだろ!!何やってんだよてめーらは…。おいガキ、この戦いが終わったら俺と決着着けようか。
死んだら許さねぇからな」


晴斗はなんとか立ち上がった。


「鐡…俺は死なないよ」
「よく言うじゃねぇの、俺が見込んだライバルなだけあるぜ」

鐡は一方的にライバル認識していたらしい。


鼎も鳶旺相手に再び戦っている。明らかに消耗してるのに…。

「きりゅさん、一旦退いて!体力持たないよ!!」
「鼎、気持ちはわかるけど…制限時間が迫ってる…。もう時間がない!」


時任と彩音は必死に鼎を離脱させようとするが、鼎は聞かなかった。
プライドが許さないのだろうか、制限時間が迫りかなり咳こんでるのに向かってる。


御堂は鼎の前に出た。


「鼎!お前むちゃくちゃだぞ!…頼むから一旦退いてくれ…。退いてくれよ!!」
御堂の叫びが悲痛に聞こえた。

「和希…」
「お前…血吐いてるだろ。わかんだよ。だからこれ以上やめとけ。死にたくないだろ。俺だってお前を失いたくねぇんだ…。
ここから先は俺らがやるから一旦休め。休ませないとお前の身体、持たねぇだろうが」


御堂は口ではそんなことを言ってるが、鳶旺怪人態については策なんてない。
戦闘不能になった二階堂を介抱した上総も戦闘に加わる。


「御堂、俺にもやらせろ。二階堂を戦闘不能にしたからな…あいつ。右腕がぼろぼろだぞ」
「二階堂の義手…使えなくなったのか…」
「あぁ。義手の中枢やられたからスペア待ちだよ。必然的に二階堂は戦えなくなった。二階堂は紀柳院ほど蹴り技は得意じゃないから、俺が退かせた」

「なるほどね」


晴斗に御堂と上総、援護には桐谷・時任・彩音・霧人が鳶旺相手に総攻撃。
火力はあるが、ほとんど効いてない事態に。


どうすんだよこれ…!



一方、鼎と二階堂は現場から少し離れた場所にいた。


鳶旺による被害が拡大しているため、救護用テントがあちらこちらに張られている。避難所も各地に開設されていた。


鼎と二階堂は救護用テントで治療を受ける。


「紀柳院さん…大丈夫ですか…?」
鼎はまだ咳こんでいた。吐血は止まったみたいだが、制限時間ギリギリだったため、次に戦えるのは数時間後となる。それだけ死と隣り合わせ。


「人の心配している場合か?お前こそ…右腕使えないだろうに」

二階堂は右腕の義手を見た。鳶旺に強く掴まれたせいで、メキメキに折られている。義手は中枢をやられたため、ほとんど動かなかった。

「スペア待ちですよ。私の義手は特殊仕様なのでゼノクから無事に届けばいいのですが…」



群馬県某町・ゼノク。
西澤は対応に追われていた。

「二階堂の義手がメチャメチャにされた!?鳶旺にやられたのか…。わかった。スペアを送るが妨害される恐れがある。
狭山にその任務をやらせるよ」


西澤は狭山(=元怪人の釵游)にある任務を託す。

「このジェラルミンケースの中にうちのゼノク隊員の二階堂のスペアの右腕の義手が入ってる。戦闘兼用の特殊なものだ。
狭山は人間になったとはいえ、身体能力はそのままだろ。送り届けてくれるか?」

狭山はジェラルミンケースを受け取る。


「了解した」

狭山蓮こと、元怪人の釵游(さゆう)はゼノク隊員として動いていた。
怪人から人間になった場所がここだったのも関係している。怪人時代の名残で槍使いなのは変わらないが。



都内某所では激しい戦いが続いている。鼎と二階堂がいないだけでこんなにもキツいなんて。


「御堂さん、とにかく奴を止めるしかないよ」
「倒せなくても止める…ってか」

「んな甘ったれたこと、言ってんじゃねー!
元老院はぶっ潰さないと同じことがまた起きる。お前らは認識が甘い。甘すぎる。この闇に世界が支配されたら永遠に光は戻ってこないんだぞ!?」
「鐡、光…どうしたらいい?」

「そこのガキ、俺に聞くな。自分の心に聞きやがれ。おのずと答えは出るんじゃねーの?」


鐡はかなり口は悪いが、なんだかんだ晴斗にアドバイスしてる。



鼎は休んでいるが、体調があまり良くないようだった。


「今までの戦闘のダメージが来たのかもしれない…。こんな時に限って…」
鼎は悔しそうな声を出す。

「鼎さん、とにかく今は休むしかないです。私はスペアが来たらまた戦いますが…鼎さんは無理したらいけませんよ!?
御堂さんがあんだけ心配してるんです」
「お前も上総に心配されていただろうが」

「…お互い様ですね」



狭山はゼノクから単独で現場へと向かっていた。
ゼノクはまだ闇に支配されていない。

狭山は槍を携えながらひたすら進んでいた。





第50話(下)へ続く。