たったひとりの怪人により、少しずつ闇に支配されていく都心。じわじわと広がり、それは首都圏を包みこもうとしていた。
「闇の範囲が拡大してる!なんかスピード上がってる!?嘘でしょ!?」
解析班の朝倉はモニター越しに焦ってる。鳶旺が作り出した闇は侵食している。
「矢神、都心が闇に侵食されてから何日経った?」
「今日で5日目だよ。最初はスカイツリー周辺だけだったのに、3日目から急速にスピードを上げてるんだ。
このまま行けば首都圏どころか世界規模になる」
「世界規模!?ちょ…かなりマズイじゃない…。私達に何か出来ることはないの!?」
解析班も詰んだ。
都内某所・救護用テントでは北川が到着。
「紀柳院と二階堂だな。二階堂、スペアの義手は狭山が持ってくる。もう少し待っててくれ。
ちょっと右腕見せて」
北川は二階堂の折られた義手を見た。義手は戦闘兼用なため、軽くて頑丈なので簡単には折れない。人間の力では不可能な折れ方をしていた。
「中枢までやられてるな…。これ、筋電義手か?長官と同じタイプに見える…」
二階堂はおずおずと答えた。
「筋電義手を戦闘兼用にしたものです。北川さんの言う通り、蔦沼長官と同じタイプになりますね。装備が微妙に違うだけで。あの…北川さん、鼎さんがちょっと調子悪そうで…」
北川は鼎を見た。
鼎はこれまでの戦闘のダメージが来たのか、かなりキツそう。北川はすぐに理解した。
「紀柳院、お前は休まないとダメだ。気持ちはわかるが、今までのダメージが身体にかなり響いているな…」
「私は戦えるのか!?」
鼎の声が必死になる。
「紀柳院、ひとまず落ち着こう。今頃暁達が戦ってる。
御堂と暁はお前のことをいたく心配してたと聞いた。駒澤も気が気じゃないみたいだけど、それどころじゃないからね。世界を救うのが先だろ」
「世界を救う…?」
北川はにこっと笑った。
「今、鳶旺(えんおう)は猛スピードで闇を侵食させている。このまま行けば首都圏どころか世界中にまで発展しかねない。
暁達はギリギリの状態で戦ってる。紀柳院と二階堂は休めるうちに休んどけ。正念場はこれからだ。
鳶旺怪人態は強さが桁違いだから苦戦してるからな…」
鼎の前には暗闇。明らかに闇の侵食スピードが早まったのは明らかで。
それをただ、見ていろというのか…。身体が悲鳴を上げてるのはわかっている、蓄積されたダメージが来たことで残り何回戦えるかも定かじゃないが…。
鼎は少しずつ、救護用テントから出ていた。
「紀柳院!お前の身体はもう限界近いんだ!あと何回戦えるかもわからないのに…」
「…行かせてくれ」
鼎は北川に背を向け、僅かに顔をこちらに振り向きながら呟いた。闇を照らすライトに照らされた白い仮面が際立つ。
鼎はとぼとぼと歩き始めたが、ダメージは深刻だった。またあの咳か…。
おそらく…内臓は損傷しているだろうな。唾液に血が混じっているのか、血の味がする。
鼎は満身創痍。北川は見ていられなくなり、思わず駆け寄った。
「お前は死にたいのか…?せっかく救われた命、無駄にするなよ…」
「北川…さん…。私は…どうしたらいいんだ。戦いたいのにこの状態じゃ…」
鼎は抑えていた感情を北川にぶつける。北川はかなり複雑そう。
鼎の蓄積された戦闘のダメージの件は前々から聞いていた。いつか、本当に戦えなくなる日が来ると。
鼎の場合、火傷のダメージもあることから身体に負荷がかかりやすい。
それが出たということは…。
都内某所。
「御堂さん、いくら攻撃しても効き目ありませーん!」
「晴斗!諦めんな!鼎と二階堂だって戦いたいはずなのに…くっそ!」
御堂、だんだんヤケになる。
「鼎の身体の件は前から聞いてたが…やべぇのかよ…!」
御堂、どこか悔しそう。晴斗は初めて知る。
「鼎さん、そんなにもヤバいの!?」
「身体の限界が近いんだ。北川から聞いた。あいつはあと何回戦えるかさえもわからない」
「鼎さん…嘘でしょ!?」
晴斗は戦闘どころじゃない様子。
「世界を救うんだろ!?ここで負けてられるかってんだよ!」
御堂は鼎を案じながらもひたすら攻撃してる。心なしか威力が上がった。
御堂さん、すごい…。
晴斗は御堂の姿を見て我に返った。俺は一体何をしてるんだと…。
鼎は救護用テントからさらに安全な場所へと運ばれる。これは北川の指示。
「彼女、身体の限界近いから無理させないであげて。あと何回戦えるかも定かじゃない…。
とにかく彼女を休ませるんだ。回復させるのを優先させてくれ」
「わかりました」
鼎は病院ではないある場所にいた。北川の指示で組織の施設に一時的にいることに。
北川は組織の施設職員に指示を出してある。
「紀柳院は無茶しやすい。今は疲れて眠っているが…。
…あ、仮面は『勝手に』外すなよ。その仮面は彼女の身体の一部だからな」
「了解しました」
「じゃあ、後は頼んだよ」
鳶旺は闇を侵食させたことにより、攻撃がほとんど効かない状態に。
闇には光だが、その「光」とは何を示すのかわからないまま。
光って…何のことだ?
本部では宇崎が蔦沼を心配していた。
「長官、打開策どうするんですか?長官も負傷してますし…」
「ブレードの発動も効かない、紀柳院の能力も意味を成さない。
相手も無敵状態になっているせいか…」
「世界規模になりつつあるんですよ!?早く止めないと取り返しのつかないことにーっ!!」
「宇崎、少し黙れ。うるさいぞ」
「…は、はい」
前線では晴斗達が必死に戦っていたが、隊員達は負傷者が増える一方。
ゼルフェノアは圧倒的不利な状態で、鳶旺との持久戦へと持ち越しになった。