鼎が研究室に向かう途中、突如アラートがけたたましく鳴り響く。隊員達が慌ただしくなる中、鼎は通路で立ち止まった。

怪人出現だと!?



本部・司令室。

「鼎、戻ってきたか。いきなり実戦になるけど…落ち着いて。深呼吸、深呼吸。
いいか、現場にいるイメージをするんだ。そうすればわかるはず」

宇崎は緊張する鼎を和らげようとする。
鼎の手は小刻みに震えていた。指揮の場合、メインモニター以外も見なければならないため、忙しい上に判断力と決断力が試される。



司令室には複数のモニターがあるが、中央にある大きなモニターがメインモニター。主に現場の映像が映し出される。
複数のサブモニターは分隊長や隊長のボディーカメラの映像・出撃している隊員の戦闘データや装備データ・組織の偵察ドローンからの現場の映像・現場周辺の地図・現場の詳細マップなどなど。
現場が屋内、とりわけ施設の場合は館内図も表示される。


今まで最前線にいた鼎だが、司令室目線は初めて。隊員達とは通信でやり取りする。
早速御堂から通信が。

「敵はネオメギド2体。市民は既に避難してある」


ネオメギドだと!?殲滅したはずではないのか!?


「…わかった。御堂、時任はいるか?」
「きりゅさん呼びました〜?」

相変わらず時任は緊張感がない。どんだけ元気なんだよ。いちかはムードメーカーだからなぁ。


「時任、ワイヤーを使い動きを制御しろ。あの特殊なワイヤー、あるだろ」
「おけーっす!あのワイヤーなら被害は最小限ですからね。ラジャー!」


サブモニターでは時任がワイヤーを使い、2体の怪人を拘束している姿が映っている。今のところ順調。
鼎は人が変わったように指揮してる。パッと見、メインモニターしか見ていないように見えるがサブモニターも見つつ、手元では機器を操作。



宇崎は鼎の司令の素質を見抜いていた。宇崎は鼎に思わず見とれてしまい、何も出来てない。

指揮初戦でこれって、鼎のやつ…司令の素質があるかもしれない。
あんなにも器用に出来るものなのか?ものすごい集中力だ…。


メインモニターでは御堂主導のもと、怪人2体に攻撃してる状況が映し出されていた。通信からは隊長の御堂の声がしきりに聞こえてる。

「ネオメギドは厄介なやつだ!桐谷さん、ロケット砲撃ち込んで!鼎、シールドシステム起動させろ!」
「了解。シールドシステム起動!」


現場の映像では市街地に被害が及ばないようにシールドが展開。このシールドシステムは決戦後に作られた。
首都圏は狙われやすいため、シールドシステムは網羅されている。


シールドシステムのおかげで、桐谷はロケット砲を撃っても街に被害はほとんど及んでいない。


「きりやんナイス!」
「いえいえ。あとは任せましたよ、御堂さん」
「おうよ!」

通信からは仲間同士の声が。映像ではいつの間にか御堂が銃でとどめを刺していた。



戦闘は終わった。鼎は集中しすぎて疲れた模様。


宇崎は鼎に労いの言葉をかける。

「鼎、お疲れ様。よく頑張りました。
お前…指揮初戦にしては慣れてるな。気のせいか?」

「現場にいるイメージでやっただけだ。感覚を研ぎ澄ませたんだ」



鼎はゾーンに入ると本人は自覚がないようだが、力を発揮するらしい。


あいつの今までの経験と洞察力・観察力が活かされたか…。司令向きかもしれないな、彼女は。
これからだんだん慣れてはくるんだろうけど、初戦にしては上出来だ。



鼎はかなり疲れを見せているようだった。


「鼎…大丈夫か?」
「ちょっと集中しすぎたのかもしれない」

「…お前、休んだら?精神的に消耗したんだろうな。いいから休みなさい。
身体に負荷はかけたくないだろ?な?休めって」


鼎は司令室を出た。宇崎は心配してる。

あいつ、身体は大丈夫なんだろうか…。



本部・休憩所。御堂達は帰還。休憩所には既に鼎の姿が。


「きりゅさんだ」
「いちかか…」

鼎は疲れているのか、声が微妙にヘトヘト。


「鼎、お前…よくやったな。よしよし」
御堂は鼎の手に触れようとしたが、鼎は一瞬びくっとした。

少し怖がらせてしまったかな…。戦闘後だし、今はまだ緊張が解けてないのかも。


「か…鼎、気を悪くしてしまったかな…」
「いや…大丈夫。疲れているだけだから…」


「鼎さん、お茶でも飲んで一息ついたらどうでしょう。落ち着きますよ」
桐谷が切り出した。


―少しして。


「桐谷のおかげで緊張がようやく解けたよ。身体がまだ戦闘モードだったようだ」
鼎は仮面を器用にずらしながら温かい紅茶を飲んでる。
「温かいお茶は落ち着きますからね。ハーブティーとかいいですよ」

桐谷はのほほんとしながら温かい紅茶を飲んでいる。


「鼎さん、私達がいますから大丈夫ですよ」
桐谷は皆の保護者のようなベテラン隊員。癒し系でもある。

「きりゅさん、あたしにも言ってね。あたしも力になりたいの。何か出来ることがあれば…力になるよ。仲間だもん!」


鼎は心強い仲間の言葉を聞き、仮面の下では涙目になっていた。
彩音も休憩所に合流。

「鼎、室長から聞いたよ。頑張ったね。かなり疲れているみたいだけど、一応救護所行こっか」



本部・救護所。彩音は鼎の身体を診ている。


「私ね、加賀屋敷さんから頼まれたの。鼎のサポートで。発作は命に別状ないものだけど、出たらかなりキツいよね。
いちかと桐谷さんにも、もし鼎が発作起こした時のための対処法は教えてる。だから緊急時、いちかと桐谷さんは鼎の素顔を見ることになるけど…いいかな」
「緊急なら仕方ない」

「…あ、鼎。いちかは鼎の素顔見るの初めてになるから『変な反応しないでね』って伝えてあるから安心して」



ゼノク・司令室。
蔦沼達は宇崎から報告を聞いていた。


「なるほどね。紀柳院がいきなり指揮をやったのか。…で、手応えがあったのか?」
「まだ初戦なのでなんとも言えませんが…。彼女は時期尚早ですが、司令の素質があるように思えます。
最近まで最前線にいたのもあるんですかねぇ」

蔦沼はこんなことを言った。
「紀柳院は小田原パターンになるかもね。小田原司令は隊員から司令になった叩き上げだろう?」


彼女は小田原司令のようになるのか?
これからどうなるんだろうか、この本部は…。



鼎は任務を通じて緊張が解けたことで「司令補佐」として少しだけ、プレッシャーから解放されたようだった。

私は私らしくやればいいんだ。心強い仲間もいる。
出来ることをすればいい。


鼎は自信が出たようだ。
彼女は司令補佐として少しずつ歩んでいく。