鳶旺(えんおう)決戦から数ヶ月後。鼎が司令補佐になり、御堂が隊長になるなど組織に変化があったが人間になることが出来る晴斗と鼎の対怪人用ブレード・恒暁(こうぎょう)と鷹稜(たかかど)にも変化が起きていた。
某日夕方。ゼルフェノア寮――
鼎はいつも通り本部から帰宅。閉めたはずなのになぜか鍵が開いている。空き巣に入られたか!?
彼女は慌てて部屋の中へ。
鼎が見たのは人間化した鷹稜の姿だった。
「おかえりなさ〜い」
「た、鷹稜!?お前が部屋の鍵を開けたのか!?…てか、なんなんだその格好!?」
鼎は鷹稜の姿が微妙に違うことに気づいた。
鷹稜人間態はマジシャンのような出で立ちにシルクハットにマント、つるっとしたまっさらな白い仮面が特徴の対怪人用ブレード。
動きにくいのか、マントと白手袋を外してエプロンを着けている。しかもエプロンがファンシー。
「決戦終わって暇になりましたので、家事でもしようかと」
「…主夫か……」
鼎はマジシャンがファンシーなエプロンをしているギャップにどう反応していいか、困った。
そのエプロン、どこで買ったよ。
ダイニングテーブルの上には温かい料理が並んでいた。あまりにもタイミングが合いすぎてる。
恒暁と鷹稜はブレードの使い手、つまり主の生命エネルギーで活動してるのでわかるらしい。
「鼎さんが司令補佐になったと聞きまして。ちょっとしたお祝いです」
「お前…料理出来るのか?ブレードが料理するとか前代未聞だぞ!?」
鷹稜は鼎を椅子に誘導した。
「料理冷めちゃいますよ〜。…あ、先に食事用マスクに替えるんでしたよね」
鼎は椅子に座るなり、いつもの白いベネチアンマスクから口の部分が開いている食事用マスクへと手慣れた様子で替えていた。
見た目はベネチアンマスクとほとんど変わらない。開口部が小さめというのもあるが。
彼女は顔に大火傷の跡があるが、目にも火傷のダメージを負っているため目の保護用レンズがついた仮面を使用している。食事用マスクも同様。
「鷹稜は食事しなくてもいいんだっけ」
鼎は器用に食べている。食事用マスクで食事するのは慣れるまでかかったが、なんとか食べれるようになっていた。マスクの構造上、多少はこぼれてしまうのは仕方ないけど。
「私は鼎さんの生命エネルギーを貰っていますので、食事はいらないんですよ」
「お前…人間じゃないもんな。人間の姿をしてるけど」
鼎は素朴な疑問をぶつけてみた。
「料理したということは、買い物行く時その格好で行くわけないよな?職質されるぞ」
「ナイス質問!外出時はこの姿でいますから☆」
鷹稜はくるっと1回転すると、真面目そうな眼鏡をかけた青年の姿へと変化。
「外出時はこの姿です」
「お前…マジシャンよりもそっちの方がいい気がする…」
「これは偽りの姿です!マジシャン姿が本来の私ですから」
そう言うと鷹稜は元の姿へと戻っていた。エプロンはそのままだが。
エプロンとのギャップが……。
別の日。これは本部占拠事件後のこと。
鼎が心の傷を負い、休養していた時だ。御堂は寮の鼎の部屋を訪れていた。インターホンを押す。
「鼎…出るわけないか…。あいつが好きなもん(スイーツ)を買ってきたから元気出るかなーって、浅はかだよなぁ…」
彼はお菓子屋さんで洋菓子をいくつか買っておいていた。
御堂は部屋から出てきた、見覚えのあるマジシャンに驚きを見せた。
「えっ!?ちょ!?お前…鼎のブレードの鷹稜!?なんでナチュラルに人間の姿でいるんだよ!?」
「どうぞ中へお入り下さい。鼎さんは寝室で休んでおりますので」
御堂は部屋へ通された。
「主は事件による心の傷が深くてですね…まだ復帰出来そうにないのです。カウンセリングも受けてますし、私にも相談しています」
「鷹稜…なんかナチュラルに馴染んでるぞ…」
「決戦以降、暇になりましたので家事をしているんですよ」
………主夫!?
「鷹稜、これ…鼎に渡して欲しいんだ。あいつの好物のお菓子屋さんのスイーツだ。元気出るかはわからないが、渡してくれよな」
「御堂さんって優しいんですね」
鷹稜はお菓子屋さんの箱を受け取った。ケーキ4つくらい入りそうな大きさの小さい箱。
御堂は鼎を相当気にしていたらしく、寝室の方向を見るなりぼそっと呟くと部屋を出た。
「鼎が食ったらあいつから連絡来ればいいんだけどな…。一言だけでいいからさ。鷹稜、そんなわけでよろしく」
御堂が出た後。鼎は寝室から出てきた。
「鼎さん、動けますか?」
鷹稜はおろおろしている。
「和希…来ていたんだろう?会話は全て聞こえていたよ。鷹稜、その箱早くよこせ」
「え…あ、はい」
「和希のやつ…私の好みを熟知しているとは…。わざわざあの店に行ってきたのか……」
鼎はケーキを冷蔵庫に入れる前に箱を開け、中身を見た。
チョコレートケーキ・モンブラン・チーズケーキにティラミスか…。ありがとな、和希。ゆっくり食べるとするよ。
彼女は箱を閉じると冷蔵庫にそっと入れた。
「今は食べないんですか?」
「時間帯が微妙だろう。夕食後に食べるよ。少しだけ元気が出たよ」
暁家でも変化が起きていた。
某日、晴斗が部屋に入るとそこには防弾ベストにプロテクター姿の青年があぐらをかいて漫画を読んでいた。
「晴斗、おかえり!」
恒暁は爽やかに迎える。
「何が『おかえり』じゃーっ!恒暁、なんで人間の姿でいるんだよ!」
「そこそこ平和になったことで暇になったじゃん。俺も何かしらしたいわけよ。
俺の存在、家族にはまだ知らせてないだろ」
「……父さんは気づいてるみたいだよ…。だって父さん、元隊長だし。対怪人用ブレード使ってたからなんか感づいてる」
「じゃあいっそカミングアウトしますか?」
「カミングアウトも何もないと思うんだが…」
陽一は気づいていたらしく、反応が薄かった。
「あ、やっぱり君…晴斗のブレードだったのね。恒暁というのか」
父さん知ってたーっ!
晴斗の母親・朱美も動じない。
「恒暁くんは晴斗の友達みたいなものかしら?相棒なんでしょ?」
「俺はこいつ(晴斗)の相棒だよ。対怪人用ブレードだが、人間になれるのよ」
「父さんのブレードも人間化したことがあったな〜。もしかしたら共鳴して、人間化するミラクル起きるかも」
それ、初耳だぞ!?父さんの対怪人用ブレード、家にあるのかよ!?
…臨時隊員だから武器は必要なのか。
陽一は自室から紫色の布に包まれた対怪人用ブレードを持ってきた。布をほどくと、そこには立派な日本刀型ブレードが。
鞘があるあたり、鼎さんの鷹稜と似ている。
「これは父さんの相棒、『燕暁(えんぎょう)』だ。上級者向けだから晴斗には扱えないだろうな」
偶然なのか?「暁」の名を持つ対怪人用ブレードが暁家に2つある…。
燕暁は恒暁と共鳴し、10数年ぶりに人間の姿へと変わる。
「陽一様、呼びましたか?なんだか懐かしい気持ちになったのです」
燕暁は女性だった。恒暁とどことなく似ている出で立ち。凜とした女性だ。
「燕暁、恒暁が懐かしいのか?」
「私達は同じ刀鍛冶から作られし、姉弟みたいなものですからね。陽一様、何もなければ私はブレードの姿へと戻りますゆえ」
「ごめんな燕暁。起こしてしまったね。今は君の出番はないんだ。
そこそこ平和になったから、ゆっくり眠ればいい」
「では…私はこれにて…」
燕暁はそう言うと、元のブレードの姿へと戻った。
別の日。晴斗は燕暁について聞いてみた。人間の姿の恒暁はすっかり暁家に馴染んでいる。
「恒暁は燕暁のこと…知ってたの?」
「知らなかったさ。俺に姉貴がいたなんてな。
燕暁はゼルフェノア黎明期にかなりの活躍をしたと聞いたよ。だから主の陽一、つまりお前の父親が休ませてるみたいだな。出番が来るまで眠っているみたいだし、天変地異でも起きない限りは燕暁は眠り続けるぞ」
「なんか綺麗な人だったよね、燕暁さん」
「晴斗、浮気すんなよ」
「するわけないでしょー!武器に浮気ってあるのか?」
またまた別の日。鷹稜は完全に主夫に覚醒した。
鼎は帰ってくると部屋がかなり綺麗になっていることに気づく。
「鷹稜、寝室は私がやるから一切手はつけるなよ。つけたら許さないからな」
鼎のプライベート全開の寝室だけは勝手に掃除されたくなかったようだ…。
「家事はしていいが、ほどほどにしておけよ。あとお前は私に対して過保護すぎる…」
「気を悪くしてしまいましたか。なんかすいません…」
「お前の料理は美味しいから期待するよ。…で、今日の晩ごはんはなんなんだ?」
「よくぞ聞いてくれました〜!ポトフですよ〜。今日は寒いから温まりますよ〜」
「鷹稜は洋食が得意なのか…。この間はビーフストロガノフ作っていたし…」
「食べたいもののリクエストがあったらバンバン言って下さいね!和食や中華、エスニック料理も行けますから!」
「レパートリーが広いな…。お前…だんだん人間臭くなってきてるぞ…。料理人向きじゃないか?」
「そ…そんな『料理人』だなんて照れますよ〜」
鷹稜、照れてるリアクション。鼎は思った。鷹稜がいると面白いせいか、自然と元気が出る。
こいつはこいつなりに一生懸命だから。
晴斗のブレード・恒暁はどうしているんだろうか?
番外編 (中)へ続く。