労働者の街として知られる東京・山谷地区(台東、荒川区)で、戦後を見つめ続けた老舗の簡易宿泊所「小松屋旅館」が取り壊された。日雇い労働者の暮らしとともにあった木造建築は、観光客向けの鉄筋4階建てに変わる。

小松屋は大正時代から1世紀にわたって簡宿を営む。この建物は1953年に建てた。
他の業者が80年前後に簡宿を鉄筋に改築する中、木造2階建てを補修しながら労働者に部屋を提供し続けてきた。
薄暗い階段を上がると、きしむ廊下の左右にふすまが並んでいた。エアコンもなかった。
4月中旬に取り壊し始め、跡地には12月、洋風簡宿が建つ。

小松屋の3代目、小菅文雄さん(48)は山谷で生まれ、3畳の和室を出入りする宿泊客をみて育った。
当時は高度成長期のただ中。満室が続き、客の中心は30〜40代だった。近くの通りは仕事を紹介する手配師と労働者でごった返し、歩行者天国のようだった。64年の東京五輪に向けた開発が本格化したころは、220軒を超す山谷の簡宿に約1万5千人が泊まった。
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