鳶旺(えんおう)との東京決戦から数日後。群馬県某町にあるゼノクへと行った御堂と彩音は、鼎がまだ意識が戻らないと知り不安な日々を過ごすことに。

処置が迅速だったことから緊急手術はなくなったが、鼎はもう2度と戦えなくなったのは確かで。


「西澤室長、鼎は本当に2度と戦えない身体になったってことなんだよな…」
司令室で御堂は西澤・蔦沼・南の3人に深刻そうに聞いている。

「彼女が搬送された、全ての組織直属病院のカルテをゼノク医療チームは見たと聞きました。組織直属病院はネットワークが強靭だからね。
前兆はあったみたいで、鳶旺の攻撃を立て続けに受けた結果、身体に限界が来て再起不能になったらしい。
決定的だったのはあの棘の餌食になったことだ。紀柳院の身体…貫通してただろ」
「…していたよ。ギリギリ致命傷は免れたってやつだよな」


そこに南が。

「加賀屋敷が言ってました。このまま紀柳院を放置すると日常生活にも今以上に支障が出る。だから手術が必要だと。
御堂、紀柳院は思っていた以上にダメージが深刻なんですよ」



ゼノク・隊員用宿泊棟。ここはゼノク職員及び、隊員以外の組織用の宿泊棟である。ゼノクに来た本部・支部隊員がたまに使う。


「彩音、鼎のところに行ってきたのか」
「まだ意識が戻らないみたい…。容態は安定してると聞いて安心したけど」

「ゼノク医療チームって…どんな連中なんだ?西澤の話から察するに、『加賀屋敷』がその天才外科医らしい」
「私も知らなかったよ。噂だけだと思っていたからさ…。例のとんでもない医療チームがゼノクにいたなんて」



本部では時任と桐谷が仕切っていた。


「被害受けた箇所はまだあるんだから、ガンガン立て直すよ〜。
後始末もあたしらの任務なんだからね。派手に壊しちゃったんだからある程度は直すしかねーじゃん!」
「時任さん、なんか逞しくなったよね…」

晴斗は時任の変貌に驚く。彼女は鳶旺決戦で大きく変わったらしい。


「暁くん、やっぱりきりゅさんのこと…気になってるの?」
「当たり前だろ。まだ昏睡状態だっていうし…」
「暁くん、本当は行きたいんでしょ」

「…うん」



ゼノク医療チーム――それは特務機関ゼルフェノアの中でも最高峰の治療をすることが出来る、組織最強の医療チームだが滅多に表に出ないために謎が多い。

情報も最小限で、天才外科医がいることしかわからない。



ゼノク・長官執務室。南は蔦沼をガン見していた。


「南…な、何!?」
「長官の戦闘兼用義手、次回1発で両方パーにしたら西澤がキレるかもしれないとのことです。西澤からの言伝てですよ」

南は真顔で言ってるため、怖い。


「スペア…まだ来ないの?これ、めちゃくちゃ使いにくくて…」

「しばらく我慢して下さい。最初は通常義手だったでしょ?見た目はあまり変わらないですが…戦闘兼用義手は精密機械みたいなもんですからね!
…あれ、確か1本1000万とか行くんじゃありませんでしたか?装備で金かかるから」
「南…生々しい話するなよ…」

「通常ですら200万〜300万だっていうのに。…ま、うちの組織は専門の義肢装具士がいるし、組織で賄っているから気にしなくてもいいですよ」
「南…もしかしてキレてる?」

「いいえ」

なんとなく気まずい…。



ゼノク・司令室。司令室に加賀屋敷が。

「加賀屋敷が来るなんて珍しいな。どうしたの」
「御堂と駒澤は?」
「俺がここに呼ぼうか?」
「頼んだよ」



改めて司令室。御堂と彩音は「なんで司令室に医者がいるんだよ!」とツッコミそうに。
この加賀屋敷という男、見た目からしてなんか怪しい。髪の毛に白メッシュを入れてるな…。医者に見えない風貌。


「初めまして。ゼノク医療チームチーフの加賀屋敷と言います」
「加賀屋敷?」

聞いたことない名前。そもそもこの医療チーム自体が謎すぎるのだが…。


「紀柳院さんについてお話したくて」
「鼎はあのままなのか?起きないのか?」
御堂は感情剥き出しで問う。

「…いいえ。彼女は守りに入っていると思われます。少しずつ体力は回復してはいます。…ですがもう、戦えない身体になりました。限界が来たんです。
12年前の事件で受けた全身火傷のダメージに加えて、ゼルフェノアに入って以降、だんだん戦闘のダメージも蓄積されていった。
決定的なのは鳶旺の棘による内臓損傷でしょう。あと数ミリずれてたら致命傷だった」

「鼎…だから無茶すんなってあれほど…」
「加賀屋敷さん、いや…先生。鼎は復帰出来ますか?」

彩音は聞いてみた。


「今のままだとかなり生活に支障が出る。火傷のダメージで支障が出てるのに…。日常生活は今よりも困難になるだろう」
「手術って、そういう意味なのか?」

「日常生活を送れるくらいには助けたいからね。
怪人によるダメージはイレギュラーが多いから、組織直属病院じゃないと出来ないの。設備の関係でね。通常の病院にはない機器があるからさ」


どんなチームなんだかいまいちわからない…。設備は凄そうだが。
ゼルフェノアにしか使えない、未知の機器があるってことか?

ゼノク隣接の組織直属病院は、ゼルフェノア組織直属病院の中でもひときわ大きいのって…。
ゼノクは怪人被害の治療に特化してるからか、未知の機器があってもなんらおかしくはない。


加賀屋敷はひとしきり説明すると行ってしまった。


「西澤室長…『ゼノク医療チーム』って、そもそも何者なんだ?明らかに胡散臭いぞあの医者。加賀屋敷だっけ?医者に見えねぇぞ…」
「御堂、文句があるなら長官に言いなよ。あの医療チームのメンバーは長官がある筋からスカウトしたり、拾ってきてるから」


なにそのテキトーに集めました感!?
スカウトならまだしも拾ってきてるって、何!?



それから数日後。鳶旺決戦から約10日経っていた。


鼎の病室に来ていた彩音は、彼女の指が僅かに動いていると気づく。
「鼎…わかる?私だよ」


声に反応したのか、鼎に徐々に変化が。
鼎は目覚めた時にパニックを起こさないように、あえて白い仮面をそのまま着けている。着けて貰っているの方が正しいか。

決戦時、血しぶきで血濡れになった白いベネチアンマスクは既に新しいものに替えてある。


鼎は目を覚ましたようだった。
「ここは…?」
「病院だよ。良かった…鼎、意識戻ったんだね」

「私は何日眠っていたんだ…」
「10日くらいかな」



鼎の意識が戻った情報は即座に本部にも連絡が行った。


「晴斗!鼎の意識が戻ったぞ!」
宇崎が喜びの声を上げる。

「ホント!?」
「彩音が気づいたらしくてね。10日くらい眠ったままだったって」


少しして――


「きりゅさん意識戻ったの!?やったー!」
「私も嬉しいです」

「時任と桐谷も気にしていたんだな。鼎のダメージは深刻だからあいつ、手術控えてるってさ。
2度と戦えない身体になってしまったが、そのままだと日常生活にかなり支障が出ると聞いた」
「室長、きりゅさんただでさえ仮面生活で支障出てるよ?それよりもヤバいってことなの?」

「ヤバいから組織最強医療チームが動いたんだろうが…」
「なにその胡散臭そうな医療チーム…。御堂さんから聞いたんすよ。
『ゼノク医療チーム』だっけ?組織最強医療チームにもかかわらず、ベールに包まれてる謎だらけの集団。そんなんに任せていいんですか?」


「お前ら…疑いすぎ」
「だって怪しいじゃーん」
「時任お前、前よりも言うようになったな…。なんか逞しくなってんぞ…」



鐡は杞亜羅(きあら)ととある場所で話をしていた。


「杞亜羅、お前好きなことを自由にやっていいんだぜ?釵游(さゆう)は『狭山蓮』となって人間ライフを満喫してる。お前はどうすんのよ」
「私は…まだ迷っております」

杞亜羅は思い詰めた表情。


「俺はあのガキ、暁晴斗と決着を着けるつもりだが?勝っても負けてもおあいこのな。
まさかあんだけ伸びるとは思わなかったよ。あのガキ…。見くびってたわ」


最初は遊びで戦ってただけなのに、のびしろが凄くて鐡を本気にさせた相手が暁晴斗。


「いいぜ、杞亜羅。暁晴斗との決着までは俺のところにいな」
「ありがとうございます」


「さーて俺は暁にカマかけに行くかな。元老院はゼルフェノアがぶっ倒したし、あとはあいつとの勝負だけなんだよ」
「戦いが終わったらどうするおつもりで?」

「もし、生きてたら人間になろうかと思ってる。こんな力、いらねーんだよ。
力が有り余ってるから加減がわからん。釵游は居場所を見つけられて良かったけどよ…。
あいつ、ゼノク隊員として馴染んでるぞ」





第53話(下)に続く。