鼎の意識が戻ってから数日後。本部では何やらざわついている。


「あれ、鐡じゃないの?」

時任は本部に現れた黒ずくめのガラの悪い男性に見覚えが。黒いロングコートにフードを被っている。
左頬から首筋にかけてある、トライバル柄黒いタトゥー。


鐡は晴斗にしか興味がないようだった。


「よぉ。暁晴斗」
晴斗はねっとりとした話し方をする男の姿を見る。

「お前は鐡…!何しに来た」
「晴斗、そろそろ決着つけようか。今じゃねぇ…そうだなぁ…ひと月後とか、どうだ?」


鐡の俺に対する呼び方が変わってる?ずっとガキ呼ばわりされてたのに。


「なんでひと月後なんだよ」
「お前んとこ、まだバタバタしてるだろうが。ひとまず一段落ついてからにしようってわけよ」
「鐡らしくねぇー」

「今、決着つけたって中途半端になるだろうが」


これは鐡の優しさなのか、なんなのか。



ゼノク・組織直属病院。鼎は加賀屋敷から聞かされ、今後の治療方針についてなど色々と話をしている。


「『加賀屋敷』って…12年前、私の治療をした医者か!?」
「覚えていたんですか…紀柳院鼎さん。いや…『都筑悠真』さんか。紀柳院さん…私を覚えていたなんて意外です」

「忘れるわけがないだろうが。私の火傷の治療を何度もしていたんだろ?
何回手術を受けたかわからないが…。加賀屋敷、お前に託すよ」

「わかっていたのか…」
「身体に限界来ていたのをわかっていて、あの時は無理して戦っていたからね。手術しないとかなり危ないんだろ?今の私は…。
聞いたぞ。日常生活に今よりも支障をきたすのはかなり困る。手術は受けよう」


そこに同じゼノク医療チームのメンバーのひとり、志摩が入ってきた。

「加賀屋敷、紀柳院にあの治療を施すのか?体力持つかもわからないのに…」
「本人の承諾も得た。やらなければならないんだよ…!」


加賀屋敷さんは一見、無関心そうで熱い人だからなぁー…。ちょっと扱いが面倒だが。



ゼノク医療チームのメンバーは4人いる。この4人は蔦沼長官によりスカウトされたか、何かしらあって拾われたかという異色の面子。


病院の一角にゼノク医療チームの本拠地が。そこには姫島と嵯峨野の姿が。

「加賀屋敷、紀柳院に相当肩入れしてるわね〜」
「姫島、そう言うなよ。それにしても12年前にもオペしてたなんてな…。
彼女、ダメージが深刻だからオペは難しいかもしれないのに。加賀屋敷、やっちゃうのか…」



本部では晴斗が鼎と連絡してる。

「…鼎さん、手術受けるって本当?」
「…あぁ、今後のためだ。戦えない身体になってしまったが、このまま放置してさらに生活に支障が出るよりはいいだろう」

「か…鼎さん…」
「どうした?」
「俺…1ヶ月後、鐡と決着つけることになったんだ。鼎さんはその頃、もう手術終わっているはずだよね…。俺も頑張るから、鼎さんも頑張ってね。祈ってるよ」

「晴斗、こっちは彩音と和希がいるから寂しくないよ。手術は何度も受けてはいるが、今回は勝手が違うらしいから…不安なんだよ」


確か鼎さんは火傷の治療で、皮膚移植は何度も受けたと聞いていた。重度の火傷を負ったから。
あの事件の爪痕は深く、鼎さんの身体の火傷の跡はほとんど目立たなくなったけど、顔の大火傷の跡は深刻。

仮面なしでは外出出来ないレベルのものになっている。目にもダメージを受けたため、素顔でいられるのは短時間。
鼎さんは基本的に人前では仮面姿だ。


鼎は晴斗の声を聞いて安心したらしい。久しぶりに晴斗の声を聞いた気がする。


「鼎、来たぞ」
「和希…お前のドッグタグにまた救われたな」


鼎は棚に乗せたドッグタグを見せる。それは鼎が組織に入った当初、御堂から貰ったものだ。

「普段は肌身離さず着けているが、病院だと都合悪いから外してる」
「それ…まだ持っていたのかよ」
「まだとは失礼な。ドッグタグの重要性を教えてくれたのは和希だろうに。
こいつは私の身代わりになってくれたのかもな」


御堂はドッグタグをいとおしげに見つめる鼎の手を優しく包みこむ。
実際、鼎は仮面を着けているため、いとおしげに見つめているように見えるだけだが。


「…これで少しは安心したか?わりぃ、不器用だからこういう時どうしたらいいのかわからねぇ……」
「いいんだよ」


彩音は物陰からそっと見守っていた。あの2人、いい感じになってるなー…。
加賀屋敷は空気を読まずに病室に入ろうとしたが、彩音は小声で制止する。


「加賀屋敷さん、今入ったら台無しになっちゃいますー!」
「…?台無し?」

加賀屋敷まで小声に。彩音はそーっと指し示した。そこには鼎と御堂が。


あぁ、なるほどね。これは失礼した。



本部では晴斗がスイッチが入った模様。

「打倒鐡ーっ!!」
晴斗はひとり、対怪人用ブレード・恒暁(こうぎょう)を使って鍛練中。鼎の対怪人用ブレード・鷹稜は司令室に預けている状態。

恒暁は再び人間の姿へとなった。


「こ…恒暁!?また人間になってる…」
「驚かなくてもいいだろうがよ。俺と鷹稜は本当はいつでも人間の姿になれるわけ。
鷹稜を見てみろ」


恒暁は司令室の方向を見る。鷹稜が独りでにゼノクの方向へと向かっていた。
この時はまだブレードのまま。

「主が相当心配なんかね〜。鷹稜は過保護だからさ…。主の紀柳院の波長を感じたのかも」
「離れててもシンクロ出来るんだっけ」


「晴斗はさ、鐡と戦った後どうすんの?組織に残る?高校ライフ満喫する?組織に残るなら、正式に隊員になれるぞたぶん」
「そんなのまだ決めてないよ…」


「鐡決戦までまだ日数がある。俺が稽古をつけてやろう。
晴斗はまだまだのびしろあるからな〜」



その頃鷹稜はゼノクへ到着。窓ガラスを割り、ブレードの姿のまま入館。


西澤は気づいた。

「侵入者?…にしてはなんか変だな…」
「西澤、そいつは侵入者じゃない」

いきなり蔦沼から通信が入る。
「そいつは紀柳院の対怪人用ブレード・鷹稜が入った痕跡だよ。カメラで確認した。
今頃人間の姿で主を探しているはずだ」



鼎は物音に気づいた。


「誰か来る」
「鼎さん、会いにきましたー」
「お前、また人間の姿になったのか!?」

「私と恒暁はいつでも人間の姿になれるんですよ、本当は。さすがに病院にブレードのまま入るわけにはいかんでしょう」
「お前…単に会いに来たのか」

「はい」


素直なやつ。



晴斗と恒暁は来るべき鐡決戦へと鍛練を重ねていた。

やがて、その日を迎えることになる。運命の一戦が―来た。