ゼノク・道場――

鼎と桐谷はそこで槍の鍛練をしている狭山を発見。狭山はずっと集中しながら棒術を鍛練中。


「…あれ、紀柳院と桐谷…だっけ?」
狭山が気づいた。なんだか冷めた言い方だが、彼はいつもこんな感じらしい。

「狭山と直に顔を合わせるのは初めてだな」
「…あれ、紀柳院の制服変わってる。何かしらあったのか」


狭山は鼎が司令補佐になったことを知らないために、こんなリアクション。リアクションは薄いが。
支部とゼノク隊員の中には鼎が司令補佐になったことを知らない人もいる。狭山はまさにそれ。
二階堂は知っていた。


しばし、休憩――


「なんで俺が人間になってまで味方になったって?…何回も戦っているうちにだんだん異空間が窮屈になったんだよ。
鐡は『自由にしな』ってスタンスだったから、俺は怪人やめて『狭山蓮』として生きることにしたわけ」
「そういうことだったのか…」


「俺は今、楽しいんだ」

狭山はずっとポーカーフェイスだったが、なんとなく笑ったように見えた。
彼は人間ライフを満喫しているようだ。その槍さばきを長官に見込まれてゼノク隊員になったとか。


狭山は組織に必要な存在になったわけで。



本部では宇崎がうきうきであるものを出していた。


「きたきたー!鼎用のコートが。おぉ〜、いい出来じゃないか」
宇崎は制服の上に羽織る組織用の薄手のコートを広げ、ニヤニヤしてる。見た目は司令用のものとはほとんど変わらない。

それは黒いゆったりしたもので、鼎のものはフードが少しゆったりしている。これは鼎の仮面との兼ね合いがあるためで。


そこに御堂が再び入ってきた。御堂は宇崎が手にした真新しいコートを見た。

「室長…そのコート、鼎用のやつ?」
「そうだよ。カッコいいだろ〜」

宇崎、どや顔。そこに御堂が指摘。


「これ…司令用のものじゃねーか!どういうことだよ、説明しろーっ!」
御堂は宇崎の胸ぐらを掴んでいる。

「まぁまぁ落ち着け。これは彼女の了承を得て作って貰ったんだよ。微妙にカスタムしてあるだろ?」
御堂はようやく手を離した。よく見るとフードがゆったりしている。

「これ…仮面との兼ね合いもあってこうしたのか?」

「…そ。ゼルフェノア隊員の制服は白だろ?ゼノクはブルーグレーだが。俺達司令クラスの制服は紺色だが…黒いコートは司令用。
鼎はあくまでも『補佐』だから制服は白のまま。これにこの黒いコートを羽織ると際立つだろ?」
「印象操作じゃないの…それ。『鼎が司令ですよー』的な」

「コート込みで白黒ツートーンなの、鼎くらいだぞ。隊員用のコートは白いわけだから。
…あ、長官も白黒ツートーンだったわ。あの人、あまりコート着ないからな〜」


あんたも司令用のコート、着てないだろうが!…と突っ込みそうになった御堂なのであった。



やがて、鼎と桐谷が本部に戻ってきた。

「お、鼎おかえり〜。桐谷もおかえり〜。鼎〜、お前用のおニューのコート届いたよ〜」
「来たのか?」

宇崎は早速その組織用のコートを見せた。鼎はフードを見る。
「ちょっと羽織ってみたら?ついでにフードも被ってみたら?」

宇崎に促され、鼎はコートを羽織ってみる。
宇崎は全身用の鏡の前に鼎を連れていく。彼女は白い制服に黒いコート姿を見た。

白黒際立っているな…。


鼎はフードを被ってみる。


かなり際立ってるというか…黒いコートに白い仮面、端から見たらかなり怪しいな…自分…。
組織用のものだから怪しまれないが。

この出で立ちで司令補佐…。滑稽だな。


「鼎、似合ってるじゃないか〜。カッコいいぞ。…一気に司令感出たね…」
「そ、そうか?」

鼎はフードを脱ぎ、宇崎を見た。
「鼎、和希とは最近どうなんだ?和希は和希で忙しいみたいだが、時間作ってくれてるし」

「…別にいいだろ」


鼎の気に障ったようだ。



本部・屋上。なぜか御堂はそこでコーヒーブレイク中。そこに鼎がやってきた。


「和希、探したぞ」
御堂はコートを羽織った鼎を見る。どう見ても司令にしか見えない…。

「鼎、なんで居場所がわかったんだ?」
「彩音が教えてくれたよ。最近和希とまともに話、してないからな」


「俺もそう、思っていた。最近バタバタしすぎて…お前だって補佐やんの大変なのにな。
ようやく落ち着けたからゆっくり話せるぞ」
「和希…私はこれでいいのかまだわからないんだ。居場所として『補佐』にはなったものの、重圧もあるし…責任重大だろ?」

「鼎、考えすぎ。室長が司令なんだからそこまで考えるなよ。
お前はお前がやれることをすればいいの。ちょっと来い」


鼎は恐る恐る距離を縮める。御堂は鼎の手を強引に取り、引き寄せた。
「こ…これで少しは安心したか?」

御堂は鼎を抱きしめた形に。ちなみに御堂の顔は赤い。照れがあるらしい。
「…和希、ありがとう」

鼎は火傷の跡を隠すために、薄手の黒手袋を履いている。鼎からしたら御堂は大事な存在で。



こっそりその2人の様子を見ている人達が。彩音と時任だった。


「きりゅさんと御堂さん、付き合ってるってマジだったんだ…。は、ハグしてる…」
「いちか、そっとしておこうよ。いちかは知らないとは思うけど、御堂さんは鼎が入った当初からずっと見ていたからね。先輩としてさ」


時任は鼎の後輩に当たる。だから知らないこともある模様。


「きりゅさん…司令にしか見えないよ。あのコートのせいかな?」
「あれ、司令用のコートだから。室長が鼎用にカスタムして貰ったんだって」

「なんかめっちゃかっこよくなってる…」



時任は存在感を増す鼎の姿に思わず見とれてしまっていた。