「ここからは選手交代だ、和希達は一旦休んでな。お前達ヘトヘトだろ」
御堂達の元に来た援軍が、まさかの支部隊員精鋭5人という展開。
その中には御堂の同期の囃(はやし)もいたわけだが、彼は知らないうちに隊長になっていたわけで…。
「囃…いつの間に隊長になっていたんだよ…」
御堂はゼイゼイ言いながら囃に聞く。
「話は戦闘後だ。こんだけ怪人がうじゃうじゃいたらキリないでしょうが。
っつーわけで月島・鶴屋、音撃と護符で一気にやっちゃって。ババーッとな。
久留米と高羽は好きなように暴れていいぞ。シールドシステムのおかげで爆破させても建物被害は最小限で済むからな〜」
囃の指示、ざっくりしてる。雑というか、元々こんな感じだったっけ?
いちかと梓も御堂同様、一旦休むことに。近くにはシェルターがある。
そのシェルターでは彩音が怪我人の手当てをしている。
組織の救護隊はフル稼働なため、救護には民間組織も応援に来ているようなてんてこ舞いな状態。
「大丈夫ですか!?今止血しますからね!」
彩音は今の状況を重く見ていた。民間組織まで駆り出される状況って…相当ヤバいよ…。
救護が追いついてないんだ…!
「あやねえ!」
「いちか…どうしたの?」
彩音はシェルターに現れたいちかを見る。
「支部の人達が来てくれたの。囃たいちょーに一旦休めって言われたけど、何か出来ることない?
指をくわえて黙って見ていろなんて無理だよ!」
いちかは必死だった。あやねえの足手まといかもしれないけど、何かしたいんだ。
彩音は冷静だった。
「簡単なことなら出来るよね?新人研修で習った救護、あれならいちかでも出来るから。
負傷者…市民はほとんど出てないのが幸いしてる。鼎のおかげだよ。シールドシステムのおかげで被害が少ない。でも死傷者は出てるから…。隊員に犠牲者が出てる」
「死傷者出てるって…嘘!?」
この同時多発的な怪人出現、人知れず犠牲になっている隊員もいるのも事実。
今回は敵の数が異常に多いため、数の暴力に負けてしまう隊員も少なからずいる。
救護に当たる彩音は救護隊と連携しているため、情報が続々と入ってくるらしい。
囃を始めとする支部隊員達は鮮やかに殲滅していたのだが。
「囃さん、これ絶対おかしいです!音撃で一掃しても数がなかなか減りません!」
そう叫んだのは月島。鶴屋も前代未聞な状況に困惑している。
広範囲で一掃してもなんでこの怪人は次々湧いてくるんだ…?
一定数を保っているのが気になる。だから御堂さん達は疲弊してたのか。
本部司令室。鼎はあることに気づく。
「和希達がいる場所だけなぜ怪人が減らない?カラクリでもあるのか?
他の場所は綺麗に殲滅されているのに…」
鼎は解析班チーフの朝倉へ通信した。
「朝倉取れるか?」
「補佐、なんでしょう」
「御堂達が交戦している場所について調べて欲しい。ここだけ怪人を倒しても倒しても次々湧いてくる。
カラクリがあるはずだ」
少し間があり返事が来た。
「了解しました。
……補佐、無理してませんか?気持ちはわかりますが…少し休んだ方がいいですよ。
……紀柳院司令補佐!?」
鼎は慣れない状況とプレッシャーに押し潰されそうになっていた。
宇崎は鼎の様子がおかしいと気づく。
「鼎!おいっ!しっかりしろ!頼むからぶっ倒れるな…!」
このバタバタした状況に気づいた朝倉は宇崎に聞く。
「何かあったんですか!?」
「朝倉…鼎のやつ、慣れない状況とプレッシャーでかなりの負荷がかかっているみたいだ。少しは自分の心配しろよ…。
お前の言う通り、少し休ませるから。倒れたら本末転倒だろ」
鼎は息を切らしている。仮面で顔は見えないが、明らかに辛そうだ。
「室長…すいません。少し休みます」
鼎の声に力がない。
「悪い。お前にプレッシャーをかけてしまったかもしれない…。
身体の調子、あまり良くなさそうだな…。鼎はあのダメージで健康体ってわけじゃないんだから、休み休みやればいい。独りで抱え込むなよ」
「すいません…」
「謝らなくてもいいよ。今は俺が指揮するから、ちょっとだけ寝てきなさい。
じゃないと体、持たないでしょ」
鼎は無言で司令室を出た。
少しふらついてる。ずっと立ちっぱなしだったのもあるのかもしれない。
彼女に長丁場は過酷だろうに…。
本部救護所。鼎はベッドの上に座っていた。
まだ動悸がする。プレッシャーのせいなのか、まだ少し気持ち悪い…。
突如、鼎のスマホに着信が入った。晴斗からだった。
「鼎さん?俺だよ晴斗だよ」
「…晴斗か?」
「俺、桐谷さん達と一緒に戦ってるよ。今は移動中なんだけどね。
鼎さん…無理してない?なんとなく気になってたから…」
鼎は沈黙する。…というか、なんて言ったらいいのかわからなかった。
「…あ、ごめん。気…悪くしたかな…」
「そんなことないよ。少しだけ元気出たよ」
「そう…良かった……」
晴斗の安堵の声。
晴斗との通話で少しだけ元気が出たらしい鼎だが、まだ司令室に戻れるような気力が戻っていない。
思っていたよりも消耗しているな…。確かに倒れたら本末転倒。
朝倉は鼎のことが気になっていた。分析を急ピッチで終えた後、バタバタと救護所へと向かう。
本当に大丈夫なんだろうか…。補佐は顔が見えないぶん、異変に気づきにくい。
「補佐、入ります」
「どうぞ」
鼎は朝倉の姿を見た。なんで朝倉がここに…?
「司令補佐…休んでいたんですね。良かった…」
「なんでわざわざここに来た?」
「そりゃあ心配しているからですよ…。うまく言えませんが…」
「分析は終わったのか?」
「終わりました。それの報告も兼ねまして。
御堂達がいる場所は特異点だと判明しました」
特異点!?
「さらに分析したところ、この場所は畝黒(うねぐろ)本人とリンクしています」
「つまり…」
「畝黒當麻を撃破しなければ、永遠にあの場所は怪人が湧いてくるんです」
朝倉のこの報告は宇崎にも知らされた。
「畝黒とあの場所がリンクしてる!?畝黒本人を撃破しないとあのままなのか!?」
「だからそうなんですってば」
「畝黒はゼノク研究施設にいると西澤から報告が上がっている。長官と畝黒が交戦中だとも聞いてるんだよ…」
「ゼノク隊員も駆り出されてるわよね!?」
「既に出撃済み。指揮は憐鶴(れんかく)がしてるというが…彼女なら戦うだろうな」
そのゼノク研究施設周辺では。憐鶴と二階堂が連携し、研究施設へ突入を試みていた。
「二階堂さん、義手の出力上げれますか」
「やったことはないですが…試してみます」
二階堂は右腕の戦闘兼用義手の出力をじわじわと上げる。二階堂の義手も雷撃が放てるようにアップデートされていた。
憐鶴はというと、対怪人用鉈・九十九(つくも)を発動させていく。
九十九は帯電し始める。
この様子を粂(くめ)達は見守るしかなかった。今現在、ゼノク隊員で攻撃力が高いのはこの2人だけ。
2人の強力な雷撃で研究施設に突破口を作ろうとする作戦。
研究施設内部。蔦沼は2発目の雷撃を放とうとしていた。
南は制止しようとする。
「出力上がっていませんか!?マズイですよ!!」
畝黒はニヤリと笑った。爆破する気だ!
彼は手のひらを翳し、派手に爆破させた。爆破の規模は大きい。爆風に煽られる蔦沼と南。かろうじて2人は致命傷を免れたが負傷してしまう。
それでも立ち上がる蔦沼。
再び雷撃するべくエネルギーを左腕に溜め始める。
憐鶴と二階堂は同時に雷撃を放った。届いて!!
2人の合体雷撃は研究施設へ突破口を作った。隊員達は研究施設へなだれ込むように突入。
研究施設内部は一部、瓦礫の山と化していた。堅牢な研究施設が破壊されている!?
あの爆破の後だ。長官は!?
長官はなんとか立っていた。両腕の義手もダメージを受けている。
秘書の南も負傷していた。
「…君たち、来たんだね」
そっけない反応。どう見ても負傷してるのに…。
蔦沼の左腕は既に帯電していた。二階堂は察した。
長官は最大出力を使うつもりなんだと。見た感じ、雷撃は既に1発使っている…。
雷撃は消耗が激しい。長官はこの雷撃に全てを込めるつもりなんだ。
「…君たち下がってて。これは僕と畝黒の戦いだから…」
「そんなこと言われても…」
戸惑いを見せる二階堂。憐鶴はさりげなく二階堂を長官の側から離した。
「これは長官にとって、最後の戦いになるかもしれないんです」
憐鶴は小声で隊員達に言った。
憐鶴は事前にある事を西澤から聞いていた。
それは蔦沼が長官を引退するかもしれないということ。それがいつになるかはわからないが、彼は区切りをつけようとしている。
西澤が憐鶴に一時的に指揮権を移行したのは憐鶴の能力を見るため。
予想外なのは二階堂である。いつの間にか現場を指示する隊長的なポジションへとなっていたからで。
それも自然となっていたから気づかなかった。
「長官に見せ場を作ってあげて下さい。お願いします」
憐鶴が隊員を制止したのはそういう理由だったのか。
畝黒の容赦ない攻撃はゼノク隊員をも巻き込む。だが、あくまでも蔦沼に花を持たせたくて。
この間にも蔦沼はエネルギーを溜めている。
最大出力、それもチャージ時間が長いとなると長官の身体の負荷は半端ない。
捨て身の攻撃になるのは誰が見ても明白だった。
その頃、本部では――
「室長、ありがとうございました。あれから調子は幾分戻っています」
鼎は司令室へと戻っていた。
「鼎、朝倉と連絡していたんだな。お前が休んでいる間に和希達に伝えたよ。
特異点のこと。畝黒とリンクしてる事実を告げたら全員驚いてたよ」
「……誰も予想つかないだろう。ラスボス本人と場所が繋がっているなんて――。
……ところで、和希達の状況は?」
「支部の囃達が援軍に来たから戦力倍増。休憩していた和希達も改めて交戦中。
新人隊員達は2つに分かれていたが、今は合流して別な場所で交戦中。
晴斗達は別なところで交戦中。つまり今現在は3ヶ所で交戦しているわけ。霧人のバイク隊も合流するでしょうな」
3ヶ所にまで絞られたか――
一時期、10ヶ所以上あった怪人出現エリアが今や3ヶ所となった。
隊員の死傷者は出ているが、建物被害は少ないと報告が上がっている。市民の負傷者も少ないらしい。
シールドシステムをあの段階で起動させて正解だったんだ。
「いよいよ正念場だな。鼎、西澤と通信しておけよ。
ゼノクとの連携で戦局は大きく変わるかもしれない。希望を持て」
「諦めたら終わりということか」
「今こそ士気を上げるべきじゃあないかい。
指揮権はお前に戻すよ」
「支部も加勢している時点で、この戦いは総力戦だと思いますが」
「そうだったな」